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【オランダのクリエイティブの現場から Vol.2】会社をふたつに分ける、という戦略 |Antinomy・27b(アムステルダム)

SHIFTBRAIN Inc.
SHIFTBRAIN Inc.
2026.06.13

本記事は、オランダにブランチがあるSHIFTBRAINによる寄稿です。同社のメンバーが2026年春にオランダのクリエイティブエージェンシーを訪問し、現地で感じたことを全8回のシリーズとしてお届けします。

実際に話を聞いてみると、制作の進め方やチームの考え方には、日本との違いもあれば、意外と共通している部分もありました。各エージェンシーへのインタビューを通して、オランダのクリエイティブの現場で見えてきたものをまとめていきます。

シリーズ2回目に紹介するのは、アムステルダムを拠点とするクリエイティブスタジオ『Antinomy』と『27b』です。

Antinomy・27bとは

Antinomyは、GoogleやMetaMaskをはじめ、宇宙領域のプロジェクトにも携わるグローバルクリエイティブスタジオ。ストラテジー、アイデンティティ、モーション、ブランド体験設計までを横断し、テック系企業のクライアントを主軸に没入型のブランド体験を構築しています。その取り組みを拡張する形で、エンターテインメント領域に特化したスタジオ27bも立ち上げています。

特徴的なのは、ストラテジー、ブランド体験設計、そして開発領域を担うAntinomyに対し、ブランディングやデザイン、モーションを27bに切り分けることで、それぞれの専門性を独立した形で成立させています。国内ではチーム単位での役割分担が一般的ですが、クライアントの領域やアウトプットに応じて会社単位で機能を切り分けている点はあまり見られないアプローチです。

SHIFTBRAINのアートディレクターが選ぶ、Antinomy・27bのイチオシ事例

事例1:Vast – Building Next-Generation Space Stations

誰しもが通ったことのある課題だと思いますが、サイトの規模が大きくなればなるほど、素材の品質や一貫性はトレードオフになると思います。しかしこのサイトでは、すべてのページにおいて高品質なビジュアルを維持しつつ、3D表現も積極的に活用されていて、細部のあしらいに至るまで、各要素がブランドの世界観を補強する役割を担っています。

また、演出面においても「見せるための動き」ではなく、ユーザー体験を軸に没入感を高めるための設計が徹底されており、すべてに明確な必然性が感じられます。さらに、日本のコーポレートサイトに多く見られるような「全ページに情報を網羅する」構造とは異なり、本サイトでは投資家や採用といった主要ターゲットにフォーカスし、必要な情報を適切な場所に配置する設計思想が貫かれています。

その結果、情報と体験のバランスが非常に良く保たれており、スケールの大きなテーマでありながらも理解しやすく、どのページを見てもワクワク感が尽きることのない、没入感の高いサイト体験が実現されていると感じました。

事例2:i-D × Adidas「Superstar」特設サイト

Webサイトというよりも、zineをそのままデジタルに落とし込んだようなレイアウトをベースに構成されている点が特徴的です。各文章は左揃えで組まれていますが、コラージュのようにスクラップされた文章を適度な崩しを取り入れることで雑誌らしさを演出しており、余白や写真の構図を活かした視線誘導によって、自然と読み進められる構造になっています。写真とタイポグラフィの関係性も整理されており、互いに干渉することなく、場面に応じて主役が切り替わることで、読み物としての体験とビジュアルとしての体験を行き来するようなリズムが生まれています。

演出においては、複雑な動きは抑えられており、コンテンツそのものを引き立てるための動きに徹しています。その為、全体として、心地よい閲覧体験が保たれています。情報量は十分にありながらも圧迫感がないため、Webでありながらカルチャー誌を読むようなワクワクする体験が成立しており、PC、スマートフォンどちらで閲覧してもコンテンツの魅力を最大限に引き出す設計となっています。

Antinomy・27bのものづくり

今回お話を伺ったのは、共同創業者のBaptisteさん。実は以前、シフトブレインのメンバーとAwwwardsのカンファレンスで出会っていたというご縁もあり、話は自然と弾みました。複数の業界にまたがるクライアントを持つクリエイティブチームが、どのようにして専門性と創造性を両立しているのか——その問いを軸に、話を聞いてみました。

共同創業者のBaptiste氏

会社をふたつに分けることで、仕事の幅が広がった

普段のプロジェクトはどのような体制で進めていますか?

もともとAntinomyは、IT系・テクノロジー系・映像系など、多様な業種のクライアントと仕事をしていました。ただ、それだとポートフォリオに業種が混ざりすぎてしまって、自分たちが何を得意としているのかが伝わりにくくなってしまうと感じていたんです。

それで、専門性を明確にすることを目的に「27b」を新たに設立しました。Antinomyはグローバルブランド(GoogleのGemini、MetaMaskなど)の案件が中心で、27bはカルチャーやエンターテインメント系が多いです。実質的には一つの組織として機能していますが、会社を分けてそれぞれのポートフォリオを整理することで、より多くの機会と仕事の幅が生まれました。

Antinomyではウェブサイトがメインですが、27bではブランディングやデザインなど、より幅広いプロジェクトに挑戦できる。仕事が単調にならないことが、チームの創造性を維持することにもつながっていると思っています。金銭的な利益だけでなく、ポートフォリオの充実や純粋な興味から、情熱を持って取り組めるプロジェクトを大切にしています。

デザインには「波」がある。それを前提にしたプロジェクトの進め方

日々のプロジェクトは、どのように動かしていますか?

社内では、デザインと開発を合わせたチーム全体で、常に4〜5つのプロジェクトを並行して進めています。内訳は大体、デザインが3〜5つ、開発が3つといったイメージです。

こうして複数を並行させているのには理由があります。デザイナーは1日中、8時間ずっとクリエイティブでいられるわけではない。どうしても波があるんです。開発はスキルがあれば比較的一定のペースで進められますが、デザインはそうはいきません。センスや創造性が必要だから。だから、行き詰まったときにもう一つのプロジェクトにスイッチできる環境をつくっています。

プロジェクトの合間に余白ができたときは、R&D(研究開発)に使います。新しいアニメーション技術や表現方法を試したり、実験的な取り組みを行ったり。そうした時間が、創造性の探求につながっていくと思っています。

最高の成果を生み出す鍵は、チームの連携——そしてAIの部分活用

プロジェクトの成功において、特に大切にしていることはありますか?

プロジェクトチーム内の連携が、一番重要だと考えています。例えば、デザイナーが特定のモーションやトランジションを要求しても、開発側が時間不足を理由に実現できない、という状況が起きることがあります。これはデザイナーや開発者の能力の問題ではなく、プロジェクトメンバーがうまく連携できていないことに原因があります。

プロジェクトマネージャーはクライアントへの対応や進行の調整を担いながら、全体をマネジメントしていく必要があります。デザイナーとエンジニアは、双方の視点から意見を交わしながら進めることで、より良いクリエイティブが生まれる。その相互のやり取りが、アウトプットの質を左右すると思っています。

もう一つ、最近はAIの活用もプロジェクトの進め方に組み込んでいます。ポイントは「全部AIに任せる」ではなく、あくまで部分的な活用にとどめること。創造性を必要としない反復的なタスクを自動化することで、人間がよりクリエイティブな作業に集中できる——そういう使い方です。

具体的には、開発チームがコーディングの一部にAIを使ったり、ブレインストーミングに活用したりしています。プロジェクトマネジメントのツールにもAIが組み込まれつつあって、社内でもチーム全体でAIについて議論する場を設けることを検討しています。

オフィスでのようす

訪問したメンバーの感想

石塚(アートディレクター / デザイナー)

オフィスの案内やインタビューに対応してくださったBaptisteさんがとにかく話しやすい方で優しい空気感が印象的でした。また、出張中に他のエージェンシーの方々と話す中で、Antinomyに行ったことを伝えると「Baptiste?」と名前が挙がることが多く、それだけ周囲からの信頼だったり存在感がある方でこのメンバーで働ける環境はとても良いものだと感じました。(社内の人も皆親切だった)

仕事の話になると、「実装面は大体のことはわかるので、あとはやるだけ」といった堂々とした言葉が印象的である一方、「新しい挑戦をするときは少し怖い」といった飾ることなく語る姿勢から、誰に対しても誠実で、地に足のついた強さを持った方だと感じ、それがそのままスタジオ全体の空気感にも繋がっているように感じました。

金(モーションデザイナー)

知り合いの元Studio Dumbarのデザイナーの方にスタジオを教えてもらったことがきっかけで、今回インタビューする運びになりました。Baptisteさんをはじめ皆さんが温かく迎えてくださり、最後はビリヤードも一緒にプレイして交流を深めることができ、とても貴重な時間を過ごせたと感じました。

取材したオランダのスタジオの中で、デザインと実装を明確に分けているのは彼らだけで、それによってポートフォリオが広がるという戦略的な観点も伺えて、とても学びが多かったです。皆さん顔が広く、クリエイティブコミュニティの豊かさも印象的で、またアムステルダムを訪れる際はぜひお邪魔したいと思いました。

岡田(プロデューサー)

Antinomy・27bのオフィスは、アムステルダム中心部から車で10〜15分ほど離れた、少し開けたエリアにありました。港の近くということもあり、街中のオフィスとはまた違う、広さや余白を感じる場所だったのが印象的です。

今回のインタビューで特に印象に残ったのは、Antinomy・27bという2つのブランドを戦略的に使い分けている点です。自分たちができることの幅は広くありながら、それをそのまま一つのブランドで見せるのではなく、届けたい相手や伝えたい価値に応じて見せ方を変えている。ブランドを単なる名前ではなく、事業やコミュニケーションの設計として捉えている点がとても興味深かったです。

個人的には、Antinomy・27bには、10年ほど前のSHIFTBRAINに近い空気も感じました。まだブランディングの上流まで深く入り込むというよりは、デジタルの領域で尖った表現や技術に挑戦していく。その姿勢や温度感に、どこか懐かしさと共感を覚えました。

また、ステッカーや、自分たちでコラボして制作した抹茶のプロダクトなど、カルチャーを外に出していく姿勢にも独自性を感じました。インタビューの中でも、制作体制やエンジニアリングに関する質問に対して、飾らず、本音で答えてくださったことが印象に残っています。

SHIFTBRAINとの違いとして最も強く感じたのは、制作におけるスピード感です。特に海外案件、なかでもアメリカの案件ではかなりタイトな進行も多いようでしたが、それでもやり切るだけのパワーがある。きれいに整えるだけではなく、限られた時間の中で突破していく力があるチームだと感じました。

坪井(プロジェクトマネージャー)

27bのオフィスは、ビリヤード台が作業スペースの横にドンと置いてあり、遊び心のある空間でした。隙間時間にメンバー同士で気分転換として遊んでいるそうで、夏にはオフィス近くでBBQをすることもあるといいます。メンバー間の距離の近さが、自然とにじみ出ているような場所でした。
シフトブレインのことも知っていてくれて、リスペクトを持って接してくださったのもとても印象的でした。

話の中で「新しい挑戦をするときは、少し怖い」という言葉が出てきました。飾らない正直さの中に、それでも前に進もうとするハングリーさが見えて、実績もあり、勢いのあるスタジオがそんなことを言うのか、と少し意外でしたが、だからこそ信頼できるとも感じました。これからも枠を広げながら、どんどん大きくなっていきそうと感じました。

さいごに

会社をふたつに分けるという構造の工夫、デザインの「波」を前提にした並行進行、そしてAIを部分的に組み込む姿勢——Antinomyと27bの話からは、クリエイティブを持続させるための現実的な設計思想が見えてきました。

美しいアウトプットの裏には、それを支えるチームのしくみがある。オランダ訪問を通じて、改めてそのことを感じています。

次回紹介するのは、Exo Ape。お楽しみに!

Credits

Interview, Text:坪井、石塚、金、岡田(SHIFTBRAIN Inc.)
Edit:OMIMU(iDIDメディア編集部)

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