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Build in Amsterdamとは

Build in Amsterdamは、Polaroid、Adidas、Vitraなど、世界的に高く評価されているデジタルコマース体験を数多く手がけてきたブランディングエージェンシーです。ブランドのストーリーと、成果につながるショッピング体験をシームレスに融合させたデジタル体験をつくっています。
彼らの特徴は、ブランドが完全に所有できる唯一のチャネルとして「デジタル・フラッグシップ」を構築するという考え方にあります。そこでは、ブランドのストーリー、データ、そして購買体験が一つのシステムの中で統合されています。そのフラッグシップの中心にあるのがデザインシステムで、ブランドがどのように見えて・どのように振る舞い・どのように拡張されていくのかを定義し、あらゆるタッチポイントで一貫したブランド体験を実現します。
さらに最近では、Front Rowとのパートナーシップを通じて、Eコマース領域の能力をさらに強化しています。Build in Amsterdamがフラッグシップとデザインシステムを設計し、Front Rowがそのシステムをマーケットプレイス、リテールメディア、CRMなど、より広いコマースエコシステムへと展開します。これによって、顧客がブランドと接するあらゆる場所で、一貫したブランド体験を維持できるようにしています。
クリエイティブ面においても世界的に高く評価されており、AwwwardsでSite of the YearやeCommerce Site of the Yearを受賞したほか、Webby AwardsやRed Dot Design Awardなど、数多くの国際的なデザインアワードで受賞を重ねています。Eコマース領域を代表するクリエイティブスタジオの一つとして知られています。
SHIFTBRAINのアートディレクターが選ぶ、Build in Amsterdamのイチオシ事例
事例1:Vitra

一般的なギフトサイトは、「どんな商品を、いくらで贈れるか」という商品軸で設計されることが多く、ECサイトのセオリーに沿った体験になりがちです。一方、このサイトではカテゴリや価格から探すのではなく、「どんなものが好きか、どんな色が好きか」といった問いを起点に商品を絞り込んでいく点が特徴的です。
商品を一覧から比較・検索するのではなく、相手を思い浮かべながら選ぶプロセスそのものをデザインすることで、ギフトを探す時間そのものをブランド体験へと昇華しています。派手な演出やビジュアルに頼ることなく、体験設計だけでVitraならではの特別感や高揚感を生み出している点が非常に印象的でした。
また、技術面やUIデザインの完成度も非常に高く、200点を超える商品を扱いながらも非常に滑らかな動きかつ余白を活かしたレイアウトや軽快なアニメーションによって情報量の多さを感じさせません。
モーダルやページ遷移を極力排除し、一つの空間を回遊するような体験を実現することで、空間を探索しているような心地よさを生み出しています。このサイトが公開されたのは4年も前ですが、今でも初めて体験したときの感覚を鮮明に覚えています。
事例2:Polaroid

Polaroidのサイトで印象的なのは、プロダクトよりも先にPolaroidらしさが伝わってくることです。
ECサイトとしてのセオリーはしっかり押さえながらも、ブランドの空気感が自然と立ち上がる設計になっています。TOPページにフォーカスすると、余白を活かしたレイアウト、2種類のサンセリフ体、罫線、クリーンな配色、そして製品写真。それらが丁寧に組み合わさることで、デジタルでありながらどこか手触りを感じさせるブランド体験を生み出しています。
また、商品ページもスペックを並べるだけではなく、実際に使用されているシーンや撮影方法を、写真だけでなく動画も交えながら紹介することで、「何を買うか」ではなく、「どう楽しむか」まで含めて設計されています。
一方で、インタラクティブなコンテンツもあるのですが、EC本体ではなく、特設ページ(https://i2-camera.polaroid.com/)に切り分けられています。ECでは演出を極力抑え、動きは製品の魅力を伝える動画に絞る。その一方で、ブランド体験は特設コンテンツでしっかり届ける。この役割を明確に分けることで、使いやすさを損なうことなく、Polaroidらしい世界観を自然に体験できるサイトになっているのだと感じました。
Build in Amsterdamのものづくり
今回お話を伺ったのは、アソシエイト・クリエイティブ・ディレクターのJerrieさん、デザイナーのEmileさんの2人です。
「ストーリーも売る」Eコマース体験を作る
現在はEコマースに特化されているとのことですが、どのようなアプローチで制作しているのでしょうか?
Jerrie:現在、私たちが最も力を入れているのはEコマースです。私たちは、ブランドのWebサイトを「デジタル・フラッグシップ」と考えています。これは、ブランドが自分たちで管理できる大切な接点であり、実店舗でいうNikeやAppleのフラッグシップストアのようなものです。ただ商品を売るだけではなく、ブランドの世界観やストーリーを伝えながら、自然に購入までつなげていく。私たちが目指しているのは、商品を売るだけではなく、ブランドそのものを体験してもらうことです。
そのため、私たちは「他にはない、変わったものをつくろう」と考えているわけではありません。それよりも、WebサイトやSNS、広告など、ブランドと顧客が接するさまざまな場所で、同じブランドらしさを感じられることを大切にしています。見た目や言葉遣い、ブランドから受ける印象まで一貫していることで、顧客との間に感情的なつながりが生まれ、それが長期的なブランドへの愛着につながると考えています。
また、約1年前にはFront Rowグループに加わりました。これによって、私たちが得意としてきたデザインだけでなく、物流やオペレーション、データ分析など、Eコマースに関わるより幅広い領域まで対応できるようになりました。Amazonなどのマーケットプレイスやリテールメディア、CRMなど、さまざまな場所でブランドがどう見えるかというところまでカバーしています。私たちとFront Rowは、それぞれの得意分野を活かして役割を分担しています。Build in Amsterdamがブランドの方向性やデザインシステムをつくり、Front Rowがそれをさまざまな販売チャネルへ展開していく。そうすることで、顧客がどこでブランドと接しても、一貫したブランド体験を届けられるようにしています。

コンセプトを軸に、すべてを組み立てる制作プロセス
具体的なプロジェクトの進め方や、デザインプロセスでのこだわりを教えてください。
Jerrie:私たちのプロジェクトは、基本的に「Foundation」「Idea」「Expression」「Delivery」という4つのステージに分かれています。最初の「Foundation」では、ブランドが何を大切にしているのか、どのような環境の中で存在しているのか、そしてその中でWebサイトなどのプラットフォームがどのような役割を果たすべきなのかを定義します。市場分析やステークホルダーからの意見、ブランドのポジショニングなど、さまざまな情報を整理し、一つの戦略的な方向性へとまとめていきます。ここで重要なのは、「何をするか」だけではなく、「何をしないか」まで決めることです。最初の段階で明確な原則を共有しておくことで、プロジェクトの途中でも、個人の好みや主観的な意見に頼ることなく、一貫した判断ができるようになります。
私たちの戦略づくりは、一般的なブランド戦略とは少し異なります。よりクリエイティブな視点を重視しているからです。ブランドがこれからどこへ向かいたいのか、市場の中でどのようなポジションを取るべきなのか、そしてまったく異なる業界から何を学べるのか、といったことまで幅広く考えます。そのために、経営層だけに話を聞くのではありません。営業やマーケティングの担当者、さらにはブランドのファンである顧客にもインタビューを行います。さまざまな立場の人から意見を集めたうえで、ブランドの本質を定義していきます。
Emile:そこから「Idea」のステージに進みます。ここでは、Foundationで定めた戦略を具体的なコンセプトへと落とし込んでいきます。どのような体験にするのか、何ができるようになるのか、ユーザーがどのようにサイトを体験していくのか、といったことを考えます。私たちは、最初から「他にはない、ユニークなものをつくろう」と考えているわけではありません。コンセプトを徹底的に掘り下げていけば、結果としてオリジナリティは自然に生まれると考えています。
そして「Expression」の段階になると、ブランドが実際のデザインとして形になっていきます。タイポグラフィ、インターフェースのパターン、モーション、写真など、さまざまな要素を使いながら、それまでに決めてきた考え方を一貫して表現していきます。私たちのプロセスの特徴の一つは、ムードボードだけを見せて方向性を決めることはしないということです。文脈のない画像だけでは、クライアントによって受け取り方が変わってしまい、必要のない認識のズレが生まれることがあります。そのため、方向性が明確になったら、できるだけ早い段階で実際のデザイン制作に入ります。そして、具体的なビジュアルを見せながら、自分たちの考えていることを伝えていくのです。

デザインと開発が一体となる制作体制
Build in Amsterdamならではの制作体制について教えてください。
「UXは見た目から大きな影響を受ける」という考えのもと、デザインとUXを分業していません。すべてのデザイナーがワイヤーフレームの作成から担当し、情報設計の段階からデザインの視点でプロジェクトに関わります。ワイヤーフレームは単なるレイアウトではなく、ユーザー体験を決定づける設計図です。だからこそ、デザイナー自身がワイヤーを引くことを大切にしています。
また我々には専任のモーションデザイナーはいないので、インタラクションはデザイナーとデベロッパーが初期段階から一緒に考え、デザインと実装を行き来しながら形にしていきます。見た目と動きが分断されることなく、一貫したブランド体験を生み出せるのは、この制作体制によるものです。
さらに、スタジオ全体で大切にしているのが、アウトプットの質の一貫性です。既存のやり方に固執することなく、新しい制作フローやツール、技術を積極的に取り入れながら、常により良い表現を模索し続けています。
PMを挟まず、デザイナーが直接クライアントと議論する
クライアントからのフィードバックやコミュニケーションにおいて、意識していることはありますか?
オランダでは率直に意見を言うのが普通で、お世辞を言ったりフィードバックを濁したりする方がかえって失礼にあたります。そのため、修正やフィードバックのやり取りでは、プロジェクトマネージャー(PM)を通すのではなく、デザイナーや開発者が直接クライアントと会話するようにしています。「こう変えればもっと良くなる」とその場で議論を活性化できるので、伝言ゲームによる意図のズレを防げるんです。
また、どれだけ美しいウェブサイトを作っても、写真や映像がひどければサイト全体のクオリティが下がってしまいます。そのため、Dr. Martensなどの海外案件でも、アートディレクターがロンドンやパリの撮影現場へ直接赴き、妥協せずにディレクションを行っています。
毎日シェフが作るランチで、チームの絆を深める
最後に、チームカルチャーやオフィス環境について教えてください。
私たちのオフィスはビジネス街ではなく、落ち着いた住宅街にあります。天窓から自然光が入り、家具も家庭用のものを置くことで、デジタル疲れを癒やす「家のような」温かみのある空間を作り出しました。
特に大切にしているのが、毎日専属のシェフが温かいランチを作り、チーム全員で一緒に食べることです。素晴らしい仕事を生み出すためには、一緒に働く仲間との強い繋がりを持つことがとても重要ですから。また、組織はフラットで、才能ある若手にはインターンの段階から実際のプロジェクトに加わってもらい、「バディ」制度や年4回のレビューを通じてジュニアデザイナーへとしっかり育成していく仕組みも整えています。

訪問したメンバーの声
石塚(アートディレクター / デザイナー)
今回の出張で最後に訪れたのがBuild in Amsterdamでした。
他のスタジオと大きく違うと感じたのは、オフィスの空気感です。広々としたワンフロアは開放感がありながらも落ち着いていて、自然と集中できそうな心地よさがあります。デザインスタジオらしいストイックな緊張感というよりも、穏やかで洗練された雰囲気があり、空間そのものがこのスタジオの価値観を表しているように感じました。
また、壁面に並ぶアワードの数は壮観でした。これまで訪れたどのスタジオよりも圧倒的で、長年にわたって世界中から評価され続けてきたことが一目で伝わってきました。その凄さは頭では理解していたつもりでしたが、実際に目の前にすると「やばい」の一言しか出ないレベルでした。一方でそれだけの実績がありながら、それを誇示するような雰囲気はまったくなく、日常の風景として自然に溶け込んでいるのが本当にかっこよかったです。
インタビューでは、「ユニークなもの」を作ることではなく、「本当に良いもの」を作るという姿勢が特に印象に残りました。流行や表現の新しさを追いかけるのではなく、ブランドにとって本質的な価値を丁寧に積み重ねていく。その姿勢こそが、世界中のブランドから選ばれ続ける理由なのだと感じました。
金(モーションデザイナー)
オフィスにお邪魔して最初に目に留まったのは、これまで受賞されてきたアワードの数々が飾られた壁でした。その圧倒的な受賞数に驚き、とても印象に残っています。
また、インターン制度を活用して将来会社で活躍できる人材を育成していることや、デザイナー自身がワイヤーフレームを作成するなど、制作を効率的かつ効果的に進めるための工夫を知ることができ、大変勉強になりました。
さらに、会社がランチを提供する制度もとても魅力的だと感じました。チーム内のコミュニケーションを深めるきっかけになるだけでなく、社員がオフィスへ足を運ぶモチベーションにもつながっていると感じました。リモートワークが主体であるSBにとっても、非常に魅力的な取り組みだと思いました。
岡田(プロデューサー)
今回訪問したエージェンシーの中でも、特にオフィスのデザインにテンションが上がりましたね。
エントランスには、これまで受賞してきた「Site of the Day」や「Site of the Month」などの実績がずらりと並んでいて、まずその時点で一気に気持ちが高まりました。さらに、キッチンから広がる開放的な空間も非常に印象的で、働きやすさとオープンさが自然に両立している、すごく良いオフィスだと感じました。
また、インタビューで個人的に面白いと感じたのは、彼らが語る「ストラテジー」の捉え方です。一般的なビジネス戦略というよりも、そのブランドがどうあるべきか、どのような印象を与えるべきか、どのような世界観やポジションを築くべきか、といった部分に重きを置いている印象がありました。ビジネス寄りの戦略というより、クリエイティビティを起点にしたストラテジーの考え方が強いのだと思います。
もうひとつ印象的だったのが、人材育成に対する考え方です。彼ら自身が非常にユニークな制作スタイルや文化を持っているからこそ、中途採用で即戦力を採用するだけでは、なかなかそのやり方にフィットしづらい部分もあるのだと感じました。そのため、インターンの段階から若手を受け入れ、自分たちの考え方や制作の型を時間をかけて伝えていく。そうした育成の仕組みは、特に日本のクリエイティブエージェンシーではまだあまり多くないように感じます。
尖ったエージェンシーほど、即戦力の中途採用に頼ることが多い印象がありますが、彼らのように若い段階から自分たちらしいユニークなやり方を伝え、育てていく姿勢は、組織の個性を継承していく上でも非常に重要なのだと感じました。
坪井(プロジェクトマネージャー)
今回訪れたスタジオの中で、個人的に一番好きなオフィスでした。ホテルのロビーのような落ち着いた空間で、こんな場所で毎日働けたらいいなと素直に羨ましく思いました。
また、「ユニークなものを作ろうとするのではなく、本当に良いものを作る」という考え方も印象に残っています。派手さや奇抜さを追いかけるのではなく、ブランドにとって本当に価値のあるものを積み重ねる姿勢は、私たちの考え方にも通じる部分があって共感できました。そして、その哲学を貫きながら世界中のクライアントと仕事をし、多くのアワードを受賞し続けていることにも説得力がありました。良いものを作ることを突き詰めた先に、きちんと評価がついてきているのがすごいと思いました。

さいごに
Build in Amsterdamのお話を聞いていて感じたのは、ECサイトを作っているというより、「ブランド体験」をデザインしている会社なんだということでした。戦略からデザイン、開発まで、一つひとつの判断に「ブランドらしさ」が軸としてあり、その考え方がアウトプットにも一貫して表れています。便利なECを作ることではなく、ブランドとユーザーの感情的なつながりを生み出すこと。その考え方は、これからのEC制作を考えるうえで、とても参考になるものでした。
次回もお楽しみに!
