「憧れのあの人」から直接フィードバックが受けられる
今日(7/8)から受講生の募集を開始するiDIDのスクール事業「CREATIVE CLASS」について、概要を教えてください。
中村:
スクール名の「CREATIVE CLASS」には、2つの意味が込められています。ひとつは、シンプルに「クリエイティブを学ぶクラス」であるということ。もうひとつは、都市経済学者リチャード・フロリダが提唱した、創造的な専門性を持つ知識労働者層“Creative Class”という概念への敬意です。主な対象は中級以上のプロで、全国どこからでも受講できるライブ型オンラインスクールにしました。少人数制の場で、“憧れのあの人”から直接フィードバックをもらえます。
デザインの基礎的な知識やツールの使い方を教える講座は、いまやネットのあちこちにあって、探せばいくらでも出てきます。だから今回のスクールではそうした内容ではなく、もっと言語化/体系化できない、属人性のあるスキルや知見を届けたいと考えました。講座は3ヶ月で、隔週90分×全6セッション。受講者10名が約一週間で制作した課題に対して、直接フィードバックを受けるのが基本の流れです。くわえてガイダンスや振り返りの会を設け、そこでは自由なコミュニケーションも楽しめるようにしたいと思っています。
講師の“憧れのあの人”とは、どんな方々ですか?
中村:
CREATIVE CLASSでは講師を「マスター」と呼ぶのですが、マスターの条件は3つ。「業界から知られている人」「SNSやメディアなどでパブリックに情報発信をしている人」「学びにどん欲である人」です。つまり“実績も発信力もあり、自分の成長にも妥協しない人”たち。まさにデジタルクリエイティブ業界を牽引している人たちを、iDIDのビジョンを語りながら口説いています。
本当なら、そんな人たちから教えてもらうためには、その人が働いている組織に応募して、面接を受け、入社して、しかもその人のチームに配属されなきゃいけません。でも、それってなかなか時間もかかるし、難しいですよね。CREATIVE CLASSなら、すばらしい憧れのクリエイターを指名して、直接教えてもらえます。

iDIDは、どうしてそのようなスクール事業に至ったのでしょうか?
加藤:
iDIDのビジョンは「デジタルクリエイティブの業界を活性化させて、クリエイターの価値をあげる」ことです。日本のWebデザイナーの平均年収って、約360万円しかないんですよね。一方、その上流で仕事をするコンサルタントの平均年収は、約1200〜2000万円。でも、優秀なデザイナーはクライアントの経営課題に向き合い、全体をプランニングするところから関わっています。つまり、コンサルタントと近しい領域を担っているうえ、手を動かしてクリエイティブもつくるのに、報酬は5分の1しか得られていないわけです。これでは報われません。
そこでフォーデジットの田口さんと一緒に考えたのが、クリエイターの価値を正しく伝え、社会的な立場を高めていくサービスでした。登録制のコミュニティプラットフォームでクリエイターの成果物や情報を見える化したり、イベントやメディアで横の交流を促したり……iDIDでは、この数年でさまざまな取り組みを試しています。
そして、その中で果たしたい役割のひとつには「クリエイターや制作会社の課題解決をサポートすること」があります。
今後の活動方針を考えるために、制作会社10社にいま抱えている課題を聞いてみる機会がありました。その結果、制作会社の悩みのテーマが「教育」だった。デザイナーに求められるスキルが高度化していることもあり、戦力になるメンバーを育てていくには、各社でどうしても時間やリソースがかかってしまうんですね。そこを解決できるサービスをつくるために、自社でもともとデザインのスクール事業を手がけていたワヴデザインとの協業にたどりつきました。
中村:
ワヴデザインがスクール事業をはじめたのは2022年。でもちょうど、クリエイターを取り巻く環境の変化を踏まえ、そろそろ学びをアップデートさせたいと考えているタイミングでした。「supported by iDID」というかたちで新しいスクールを立ち上げれば、よりデジタルデザインの業界を盛り上げられる場になるんじゃないかと感じたんです。

中村:
僕らワヴデザインは、クリエイターの価値を高めようというビジョンに共鳴し、2023年のプレイベント開催時からiDIDの運営に関わっています。個人的には、加藤さんの「自分はクリエイターだけど、若手をサポートする側に回るんだ」という覚悟にも心を動かされました。
加藤:
せっかくすごいクリエイターがたくさんいるんだから、僕らの立場でできることをどんどんやったほうがいいじゃないですか。ただ、業界を盛り上げる活動や場づくりはある程度やってきたし、喜んでもらえてもいました。でも、そろそろもう少し継続的な事業を考えなければいけないと感じ、今回のスクール事業に至ったんです。
クリエイター、制作会社、業界、講師の「四方よし」
CREATIVE CLASSでは、たとえばどんな内容の講義を予定しているのでしょうか。
中村:
たとえば、8月にマスターを担当していただくのはShhh inc.の宇都宮勝晃さんです。テーマは「デザインの『入口』と『出口』を鍛える、頭・手・目の実践」。
制作や実装の多くをAIと協業していくこれからのデザイナーの真価は、デザインの「入口」となる全体を通じた“マクロな構想力”と、「出口」となる品質を決める“ミクロの審美眼”に集約されます。いわばCDのような全体を統括する役割で、構想力と美的基準を武器に社会へ働きかけることが、これからのデザイナーの一つの姿ではないか――そんな問題意識のもと、「頭」で問い・構想し、「手」で形にし、「目」で磨き上げるデザインの循環を体系的に実践・強化するクラスです。詳しくはCREATIVE CLASSのWebサイトをチェックしてください。
加藤:
「ワイヤーフレーム」「プレゼン」などと明確なテーマも出てくるでしょうし、各社が悩んでいたような即戦力づくりのニーズもしっかり満たせると思いますね。……僕も受けたくなってきた(笑)。
中村:
本当、僕らも受けたいですよね(笑)。

デジタルクリエイティブ業界を牽引するマスター陣

【8月21日(木)開講】宇都宮 勝晃(Shhh inc.)※7/8(火)より応募開始
【9月開講予定】野田 一輝(UNIEL ltd.)
【10月開講予定】中野 浩明(THREE, L/O)
【11月開講予定】今村 玄紀(Bees&Honey)、原 英寿(Sunny Inc., Nauts)、中川 博文(ANDMADE Inc., Nauts)
【12月以降開講予定】田渕 将吾(S5 Studios)、鎌田 亮平(Paraph)、ハラヒロシ(デザインスタジオ・エル)、小玉 千陽(ium inc., THE GUILD)
※開講予定順・敬称略
※講座・講師は予告なく変更になる場合があります
講義中心の「レクチャー型」ではなく、課題に添削がもらえる「フィードバック型」というのも大きな特徴ですね。
中村:
そうなんです。じつはCREATIVE CLASSの構想は、この教え方のほうから組み立てていきました。これは、僕がとあるコピーライティングの講座を受けた体験から着想を得ています。もともと仕事のなかでコピーの制作に携わることも多かったのですが、コピーってブラッシュアップするときの伝え方が難しいんですよね。それで、自分の好きなコピーをつくった人が教えているオンライン講座を受けてみたら、課題ありのフィードバック型で、すごく学びになったんです。
一人で課題に取り組む過程ももちろん勉強になるけど、一緒に受講しているメンバーとともに受けるフィードバックは、本当に学びの宝庫でした。受講生のなかには、世界的なコンペティションで活躍していたり、見たことがある広告のコピーを書かれているような方も混ざっていて……自分なりに手を動かしたうえで、同じ課題に対して別の視点で取り組んだほかの受講者の作品を読み、すばらしいクリエイターからのすべてのフィードバックを聞くわけです。これは本当に圧倒的な体験で、一回の授業のなかで20回くらい刺さるものがありました。
すでにプロとして活躍しているクリエイター向けには、ただ聞くだけのレクチャー型よりも、みずから考えて取り組むプロセスを挟むフィードバック型のほうが、やっぱり知識やスキルの入り方が抜群に深い。だから、CREATIVE CLASSは絶対にフィードバック型にしたいと思っていたんです。
確かに、学びがぐっと深まりそうです。
加藤:
20年ほどWeb制作会社を経営してきた感想なんですが、クリエイターの転職って、多くは「お金」じゃなくて「スキルアップ」を求めることから起きるんですよね。もちろん、エース級のクリエイターが引き抜かれて年収を上げる……みたいなケースもあるけれど、「もっとスキルアップしたい」という理由で社外に出ていく人は少なくないんです。会社側からすれば、せっかく育ててきたクリエイターがよそに吸い取られてしまう、ということでもありますが……。
中村:
さらなる活躍の場を求めたエースが、また別の制作会社に入ったり、ともすると自分で小さな会社をつくったりする。そうすると、元いた会社でエースから後輩に伝承されるはずだったスキルや知識は消えていきます。エースが会社を興した場合は、しばらくは教育に手が回らなかったりして、ここでもまた技術継承が行われない……。こんなふうに、優れた技術がうまく継承されていかない現実は、業界のあちこちで起こっているんですよね。
また、エースが抜けたあとの制作会社では、残っている中級以上のデザイナーに大きなチャンスが回ってくるかもしれません。でも、そこで優れたものをつくるためにはもっと勉強したいのに、社内には教えられる人や機会が少ない……となると、やはり社外に学びの場が必要になります。
だから、CREATIVE CLASSのように外で有益な学びが得られる仕組みがあれば、会社も「転職しないでスクールに通えばいいよ」と言えるようになるんじゃないでしょうか。法人でも申し込めるので、会社から社員を送り込んでもらってもかまいません。スター選手を育てる環境がうまく整えられない組織にとっても、大きなメリットがあると思います。

加藤:
自分で会社をつくったりフリーランスになったりしたすばらしいクリエイターにとっても、自分のスキルを継承できるのはメリットだと思うんですよね。会社員と違って、ノウハウを引き継いでいく相手がいないのがさみしいという声はよく耳にしますね(笑)。
中村:
確かに、マスターたちにもそういうメリットを感じていただけたらうれしいですね。成長したいクリエイター、社員に成長してほしい制作会社、業界、マスターの“四方よし”が狙える。iDIDがそんな「学びのハブ」となって技術継承の空洞化をクリアし、中級以上のデザイナーを引き上げていきたいと考えています。
“人”や“情熱”が介在することで、成長する学びが生まれる
AI時代において、学ぶことの価値は今後どうなっていくと思いますか?
中村:
そもそも、20年以上デジタルデザインの仕事をしてきて、学びが止まったことってなくないですか?
加藤:
うん、ないですね。
中村:
デジタルクリエイティブのニーズって、時代によって変わっていくんですよ。これまではずっと「端末のスクリーン」に向けたクリエイティブをつくってきたし、最初のそれはずっとパソコンでした。でも、スマホが爆発的に普及したことで、多くのコンシューマーとクリエイティブの接点はスマホになった。だから、ここ10年ほどは、スマホに向けたものをつくってきたんです。でも、これからもっとARやVR、ウェアラブルデバイスなどが増えていけば、「端末のスクリーンに向けてつくる」といった定義からも解放されるときがくるかもしれません。
だからこそ、僕らは学び続けなければいけないんです。ただ、いまデジタルクリエイティブに携わっている人たちって、そもそも学びに意欲の高い人たちなんじゃないかなとも思っていて。ニーズの変化に合わせて必要な技術を学び、経験を積む。そして、それが不要な時代がきたらせっかく身に着けたものを手放して、また新たなノウハウを吸収していく……そんなことの繰り返しを楽しめる人たちばかりが、残っている気がします。
そうやって学びを深め、継続していくためには、何が必要だと思いますか?

加藤:
僕は「人が介在すること」だと思います。というのも、自分は今年48歳なんだけど、この数年、若いときのような成長実感を得られることがなかったんですよね。でも最近、プレゼンやコミュニケーションのスキルアップを感じる場面が増えてきていて……それがなぜかと考えてみたら、とあるスタッフに「加藤さんはそのスキルが不足しているから、鍛えたほうがいい」って言われたからだと思ったんです。いままで社長の自分にそんな指摘をしてくれる人っていなかったのに、彼が情熱をもって「加藤さんはここを伸ばすべきだ」と伝えてくれたから、一度は落ち着いていた自分の成長意欲が活性化して、行動につながった。スキルを身に着ける手段はたくさんあるけれど、人の想いや情熱が介在しないと、やっぱり成長にはつながらないんじゃないかと感じました。
中村:
わかります。僕がコピーライティングの講座で深い学びを得られたのも、自分が真摯に取り組んだ課題に対して、情熱を持った指摘や他の視点を提供してもらえたから。やっぱり、そういう瞬間に学びが生まれるんですよね。
加藤:
iDIDでもオンラインスクールだけでなく、いずれはイベントと連携したワークショップスクールなんかも展開していけたらいいなと思っています。付箋を貼りながら手を動かしていくような、リアルで直接教われる場にもまた違う価値があるはずだから。

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