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【オランダのクリエイティブの現場から Vol.8】型を持たないという流儀 |Numbered(アムステルダム)

SHIFTBRAIN Inc.
SHIFTBRAIN Inc.
2026.10.10

本記事は、オランダにブランチがあるSHIFTBRAINによる寄稿です。同社のメンバーがオランダのクリエイティブエージェンシーを訪問し、現地で感じたことを全8回のシリーズとしてお届けしてきました。

実際に話を聞いてみると、制作の進め方やチームの考え方には、日本との違いもあれば、意外と共通している部分もありました。各エージェンシーへのインタビューを通して、オランダのクリエイティブの現場で見えてきたものをまとめていきます。

いよいよ最終回に紹介するのは、特定の業種や固定されたデザインスタイルに縛られることなく、世界中のクライアントから指名が絶えないクリエイティブエージェンシー「Numbered」です。

Numberedとは

Numberedは、ChanelやDom Pérignon、Sézane、Ladurée、Vacheron Constantinなど、ラグジュアリーやファッション、ビューティー領域を中心に、ブランド戦略からデザイン、コンテンツ制作、撮影までを一貫して手掛けるグローバルクリエイティブエージェンシーです。

特徴的なのは、Eコマースをブランド体験の中心として捉えている点です。ブランド戦略、アートディレクション、CG・3D、Shopifyまでを横断し、ブランドごとに最適なデジタル体験を構築しています。ECサイト制作というと画一的なプロセスを想像しがちですが、それぞれのブランドに合わせてチーム体制やアプローチを組み立てることで、UIデザインから購入体験に至るまで、一貫したブランドの世界観を設計しています。

SHIFTBRAINのアートディレクターが選ぶ、Numberedのイチオシ事例

事例1:Dom Pérignon

高級車を購入する際、まずブランドの哲学や思想に共感し、その上で商品を選ぶという体験があるかと思います。今回のケースもまさにそれに近しく、サイト全体では商品のスペックやラインナップを見せること以上に、創造・時間・美学といったブランドの思想を体験として伝えることに重きを置いた設計が徹底されています。

また、このサイトのコンバージョンは購入ではなく、商品をどこで購入できるかを確認するところまでだと思います。もちろんECサイトではあるため、TOPページのファーストビュー直下に商品が配置されていますが、その後は単に商品情報を並べるのではなく、一つの作品を鑑賞しているような感覚でコンテンツが展開されていきます。

ビジュアル面でも、写真・映像・タイポグラフィ・余白・モーションのどれか一つが主張するのではなく、それぞれが絶妙なバランスで設計されており、静けさと緊張感を同時に生み出しています。スクロールやトランジションも決して派手ではありませんが、その抑制された演出がブランドの品格をより際立たせ、ラグジュアリーブランドらしい余裕のある空気感を生み出しています。

特に印象的だったのは、商品と同じくらいの重要度でAesthetic IdealやCreation is an Eternal Journeyのようなブランドの思想を伝えるコンテンツが大きな役割を担っていることです。まずブランドの価値観や哲学に触れ、その延長線上で商品への興味につながるような導線になっているため、商品を知るというよりブランドを理解する体験になっています。

その結果、サイト全体の体験設計がブランドの世界観を少しずつ理解し、購入に向けた感情を育てていく構造になっています。情報量は決して多くありませんが、商品を売ることを急ぐのではなく、まずブランドを好きになってもらう。その思想をデジタル上でここまで一貫して表現できている点が、このサイトの一番の魅力だと感じました。

事例2:Damso

ラッパー・Damsoの公式サイトです。サイトを開くと、まるでiPodを操作しているかのようなインターフェースが現れ、音楽プレーヤーを触る感覚でコンテンツを回遊できます。このUIには明確な意図が語られているわけではありませんが、単に特徴的な見た目をつくるためではなく、音楽を聴くという体験そのものをWeb上で再解釈したデザインのように感じられます。サイトを閲覧するというよりも、私自身の体験になりますが、中学〜高校時代に友達のiPodを借りて新しい音楽をディグっていた頃の感覚に近く、どこかノスタルジーを感じながら自然と世界観へ引き込まれていきました。

一方で、TOPページのコンテンツを見るとアーティストの公式サイトというよりも、尖ったアパレルブランドのECサイトのような印象を受けます。しかし、実際に主役となっているのは商品ではなく、Damsoというアーティストが持つ世界観やカルチャーなのではないかと私は感じました。このサイトでは、商品詳細ページにあたるコンテンツも必要最低限の情報に留められ、Tシャツやフーディーといったアイテムも、単なる商品ではなくDamsoという世界を所有するための一部として位置付けられていると思います。そう考えると、このサイトはEC機能を主役に据えているのではなく、ブランド体験の延長線上に購入体験を自然に組み込むことで、Damsoという世界観への没入感を最後まで維持しているサイトだと感じました。

ここまではクリエイティブディレクター的な視点でこのサイトを見てきましたが、UIの作り込みも非常に面白いです。iPodライクなインターフェースでありながら、画面下部の操作ボタンは中央の選択ボタンをクリックするとモーフィングしながらシームレスに形状が切り替わり、見た目の面白さだけでなく操作そのものが心地よく感じられます。また、「World」ページでは画面全体がデスクトップのようなUIへ切り替わり、ここでもコンテンツはあえて最小限に抑えられています。フォルダをクリックするとAppleライクな画像ビューアが展開されるなど、細部まで一貫した世界観で設計されており、UI自体がコンテンツの一部として機能している点も非常に印象的でした。

Numberedのものづくり

今回お話を伺ったのは、創業者兼エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターのMartinさんです。

Flash全盛期からの脱却。「面白いもの」から「ブランドの成長」へ

まずは、ご自身のキャリアとNumberedの成り立ちについて教えてください。

私がデザイナーとしてフリーランスのキャリアをスタートさせたのは16歳の時です。20代前半でパリのエージェンシーに入社した当時は、まさにFlashの全盛期でした。明確な目標やデータ分析もないまま、ただ「クールでインタラクティブなもの」を作るために莫大な予算が動く、とても自由でクレイジーな時代でした。

しかし、モバイルの普及とともにFlashの時代が終わり、ウェブのあり方は大きく変わりました。「1ユーロ投資して、3ユーロを回収する」という明確なROI(投資対効果)が求められるようになったのです。

そこで私たちは、単にインタラクティブなサイトを作ることから、「ブランドを構築し、成長を支援する」方向へと大きくシフトしました。現在はウェブサイト制作にとどまらず、戦略、ブランディング、コンテンツ制作、Eコマースまで、フルサービスを提供しています。

「Numberedらしさ」はいらない。あえて異業種に挑み続ける理由

御社のポートフォリオは、驚くほど多岐にわたる業種で構成されていますね。

最初から「特定のスタイルを持ちたくない」と強く思っていました。サイトを見た人に「これはNumberedが作ったな」と特定されたくないんです。私たちが証明したいのは、「どんな業種でも、どんな課題でも解決できる」ということだからです。

以前、Sézane(セザンヌ)というファッションブランドの立ち上げを支援し、彼らがフランスで大成功を収めました。するとファッション業界からの依頼が殺到したのですが、「いつも同じレシピの繰り返しになる」と感じて断るようにしました。次に美容ブランドのTypology(タイポロジー)を成功させたら、今度は美容系ばかり依頼が来るようになりました。

だからこそ今は、スポーツカー、ディープテック、神経科学など、意識的に全く異なるカテゴリーに飛び込んでいます。私は車の免許を持っていませんが、数億円のハイパーカーのプロジェクトを担当し、今ではすっかりその世界の専門家気取りです(笑)。

用意されたブリーフは読まない。デザインにおける「好き嫌い」の排除

プロジェクトを進める上で、最も重要視しているプロセスは何ですか?

クライアントのトップマネジメント全員を集めて行う「ディスカバリーセッション」です。実は、事前にクライアントが用意したブリーフ資料はあまり深く読み込みをしません。今の時代、そうした資料はAIで作ったものだったりして、彼らの本質がわからないことが多いからです。

私たちが知りたいのは、彼ら自身の言葉遣いや、感情の乗り方です。直接対話することで、財務状況やテクノロジーも含めて、まるで彼らの従業員レベルの情報共有を行います。

デザインの提案時に、クライアントと意見が衝突することはありませんか?

デザインは主観的なものなので、「この色が好き、嫌い」という議論は完全に無意味だと思っています。重要なのは「そのブランドがターゲットとしている人たちが、何を好むか」です。

会議の場では、心理学的なアプローチを用いて、目の前の人が置かれている状況を見抜きます。意見がぶつかる時は、大抵は外部的なプレッシャーや不安が原因です。だからこそ私たちは、「このデザインがクールだから」ではなく、製品の特性とビジネスの目的に基づいた「あるべき姿」を論理的に提示し、彼らを安心させることに注力しています。

18時完全退社。妥協なき組織づくり

これだけ質の高いアウトプットを出し続けるための、働き方の秘訣を教えてください。

私たちの会社では、残業は一切ありません。18時で完全に業務を終了し、週末も絶対に働きません。

私がパリでキャリアを始めた頃は、朝の4時まで働くような過酷な生活をしていました。それはフランス業界の悪しき文化です。だからこそ自分の会社を立ち上げた時、「社員には絶対にそんな働き方をさせない」と決意しました。

その代わり、勤務時間中は極めて集中します。デザイナーは常に3〜5つの案件を並行して持っており、あるプロジェクトで行き詰まったら、すぐに別の案件に頭を切り替える「タスクスイッチング」を行っています。画面を睨みつけて悩む時間をなくし、常にフレッシュな脳でクリエイティブに向き合うことが、圧倒的なスピードと質を生み出す秘訣です。

クライアントワークは「人間関係」がすべて

最後に、今後の展望と仕事を受ける基準について教えてください。

私たちは営業も広告も一切行っていません。すべての仕事が人からの紹介で成り立っています。何よりも人間関係を重要視しています。だからこそ、最初のミーティングで「人間関係のフィット感」を感じなければ、どんなに予算が大きくても仕事はお断りしています。楽しくないプロジェクトは、誰にとっても悪夢ですから。

また、私たちは予算の大小に関わらず、同じクオリティを提供することをポリシーとしています。時には「ほぼ無料」で受けることもありますし、逆に私たちの思想に反する業界からの依頼は、どれほど高額な報酬でもお断りしています。

現在はアメリカのクライアントも増えており、いずれはUSオフィスの設立も視野に入れています。働き方もカルチャーも多様化していく中で、これからも好奇心を絶やさず、新しい世界への挑戦を続けていきたいと思っています。

訪問したメンバーの声

石塚(アートディレクター / デザイナー)

オフィスに着いて最初に感じたのは、その空間が持つ荘厳さでした。アムステルダム旧市街の建物をそのまま活用したオフィスで、他のデザインスタジオのオフィスとはまったく違う雰囲気がありました。AdoratorioのFilippoもオフィスは会社の顔になると話していましたが、Numberedもオフィスからデザインに通じるかっこよさや威厳が感じられました。

お話を伺う中で特に印象的だったのは、誰と仕事をするかを何よりも大切にしていることです。誰もが知る大企業からスタートアップまで幅広いクライアントと仕事をしながらも、規模ではなく相性を重視してプロジェクトを受ける。その考え方が徹底されているからこそ、常に良いクリエイティブを生み出せる環境がつくられているのだと感じました。

案件は常に複数同時進行で、ジャグリングのように回していると表現されていましたが、それが成立しているのは、単なる進行管理の丁寧さやクリエイティブにおけるスキルだけではなく、クライアントとの関係性を大切にしているからこそだと思います。クライアントとの信頼関係があるからこそ、お互いに良い距離感で仕事ができ、チームもクリエイティブに集中できる。その積み重ねが、質の高いアウトプットにつながっているのだと感じました。デザインの話だけでなく、良いクリエイティブを生み出すための環境のつくり方まで伺えて、とても学びの多い時間でした。

金(モーションデザイナー)

特に印象に残ったのは、クライアントとの相性を非常に重視している点です。いわゆる炎上しやすい案件や、初期段階から細部に意識が向きすぎて全体を捉えられていないクライアントについては、できるだけ早い段階で見極め、難しいと判断した場合は無理に引き受けない。そうしたスタンスが徹底されていました。さらに、スタジオと決裁者の間に担当者が入るケースでは、担当者の心理(決裁者に認められたい、など)も踏まえ、起こり得るやり取りを事前に想定しておくことで、コミュニケーションを円滑に進めていく——その進め方がとても勉強になりました。クリエイティブ面でも、費用面で難しい部分はAIを積極的に取り入れたり、新しい分野での案件では積極的に投資を行いポートフォリオを広げていく姿勢が柔軟で、それも印象的でした。

岡田(プロデューサー)

Numberedさんのお話で特に心に残っているのは、クライアントとの相性をとても大切にされている点です。

会社の規模が大きくなっていくほど、案件ごとのリソース配分や、クリエイティブと事業性のバランスを取ることは難しくなっていくと思います。そうした中で、どのようなクライアントと向き合うべきか、自分たちに合う相手はどんな人たちなのかを、感覚だけではなく、丁寧に見極めようとしている姿勢がとても印象的でした。

特に、心理学的な観点も取り入れながらクライアントとの相性を測り、案件を受けるかどうかの判断にも活かしているという話は、とても興味深かったです。僕たち自身も、クライアントとの相性の大切さや、その判断の難しさを日々感じています。だからこそ、それを曖昧なままにせず、組織として考え続け、実際の意思決定にまで落とし込んでいることに強く共感しました。難しいことだからこそ、それを貫いている姿勢は素直にかっこいいなと思います。

もうひとつ心に残っているのが、Martinさんのあり方です。撮影の際に「自分は写真に映らなくていいよ」というようなスタンスでいらっしゃったことが、個人的にはとても好きでした。

代表という立場であれば、自分自身が会社の顔として前に出ることも少なくないと思います。でもMartinさんの場合は、自分が目立つことよりも、メンバーやオフィス、チームの雰囲気を見せることを大切にされているように感じました。

そこには、「自分個人」ではなく、「会社」や「チーム」そのものを見てほしいという考えがあるのだと思いました。その自然な距離感や、前に出すものの選び方に、Numberedという会社らしさが表れているようで、素直にかっこいいなと感じました。

坪井(プロジェクトマネージャー)

今回お話を聞いていて印象的だったのは、とにかく人との関係を大事にしていることでした。心理学の話が出てきたり、クライアントとの相性をかなり重視していたり、案件も紹介だけで獲得していたりと、クリエイティブの話以上に、「誰と仕事をするか」を大切にしている会社なんだなと感じました。もし彼らから「相性がいいね」と言われたら、それだけで安心して一緒にプロジェクトを進められそうだなとも思いました。

あと、オフィスにいた犬の名前が「Tokyo」だったのも印象的でした。すごく可愛かったです。

さいごに

「デザインの美しさ」の前に、まずは「人」を深く理解し、ビジネスの「あるべき姿」を定義する。特定のスタイルに依存せず、常に新しい領域へ挑戦し続ける彼らの姿勢は、変化の激しい現代におけるクリエイティブエージェンシーの一つの理想形と言えるのではないでしょうか。人間の手による創造性を信じ、妥協のないクオリティを適正な労働環境で生み出し続ける彼らの次なる展開から、今後も目が離せません。

シリーズを終えて

全8回にわたって、海外のデザインスタジオやクリエイティブチームを訪ね、それぞれのものづくりへの向き合い方や、チームのあり方について話を聞いてきました。

スタジオによって組織の形も、得意とする領域も、プロジェクトの進め方もさまざまでした。一方で、今回の訪問を通して共通して感じたのは、優れたクリエイティブは、個人の才能だけから生まれるものではないということです。

アイデアを生み出すためのチームの関係性、クオリティを守るための仕組み、新しい表現に挑戦するための投資、そして自分たちが何を大切にするのかという明確な意思。それぞれのスタジオが、自分たちなりの方法で「良いものをつくり続けるための環境」をつくっていました。

今回得たさまざまな刺激や学びは、私たち自身のものづくりやチームのあり方を改めて考えるきっかけにもなりました。これからのプロジェクトやチームづくりの中で、SHIFTBRAINなりの形に変えていきたいと思います。

そしてSHIFTBRAINは、これからも日本だけにとどまらず、海外のクリエイターやスタジオとの交流や協働を広げながら、よりグローバルに活動できるチームを目指していきます。今回オランダで生まれたつながりも大切にしながら、新たなプロジェクトや挑戦へとつなげ、私たち自身もクリエイティブの可能性を探り続けていきます。

全8回にわたってお読みいただき、ありがとうございました!

Credits

Interview, Text:坪井、石塚、金、岡田(SHIFTBRAIN Inc.)
Edit:OMIMU(iDIDメディア編集部)

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