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【オランダのクリエイティブの現場から Vol.7】ブランドは「動き」までデザインする時代へ |Studio Dumbar/DEPT®(ロッテルダム)

SHIFTBRAIN Inc.
SHIFTBRAIN Inc.
2026.09.12

本記事は、オランダにブランチがあるSHIFTBRAINによる寄稿です。同社のメンバーがオランダのクリエイティブエージェンシーを訪問し、現地で感じたことを全8回のシリーズとしてお届けします。

実際に話を聞いてみると、制作の進め方やチームの考え方には、日本との違いもあれば、意外と共通している部分もありました。各エージェンシーへのインタビューを通して、オランダのクリエイティブの現場で見えてきたものをまとめていきます。

シリーズ7回目に紹介するのは、オランダ・ロッテルダムを拠点とし、モーションデザインを活用したブランドアイデンティティで世界をリードするデザインスタジオ「Studio Dumbar/DEPT®」です。

Studio Dumbar/DEPT®とは

Studio Dumbarは1977年にハーグで設立され、現在はロッテルダムを拠点に活動するデザインスタジオです。2016年からはDEPT®の一員として活動しています。Liza EnebisとWouter Dirksが率いており、ヨーロッパでいち早くモーションデザインを取り入れたスタジオの一つです。

政府機関、鉄道、音楽フェスティバル、世界的に有名なIT企業など多岐にわたるクライアントと協働し、モーションやクリエイティブコーディングを含む領域を広げ、動きのあるデザインで国際的な評価を得ています。

SHIFTBRAINのモーションデザイナーが選ぶ、Dumbarのイチオシ事例

事例1:DEMO 2025(Design in Motion Festival)

DEMOは、世界中のデジタルサイネージを会場にした世界最大級のモーションデザインフェスティバルです。Studio Dumbar自身が企画・運営し、毎年世界中のクリエイターから作品を募集しています。

このフェスティバルは、駅の広告用デジタルサイネージに広告とは異なるモーションコンテンツを流し、人々に新しい体験を提供する「Cities in Motion」プロジェクトから発展しました。公共空間でモーションデザインの可能性を探求する取り組みは、やがて世界中のクリエイターによる作品を紹介する世界最大級のモーションデザインフェスティバルへと進化しています。

印象的だったのは、「モーションは画面の中だけのものではない」という考え方です。駅や街頭など公共空間のサイネージを展示空間へと変え、人々が日常の中で自然にモーションデザインへ触れられる仕組みをつくっています。

また、毎年アイデンティティを更新しながらも、タイポグラフィやモーション、レイアウトに共通性を持たせつつ進化させることで、一貫したブランドアイデンティティを実現しています。

このプロジェクトからは、ブランドアイデンティティは「静止したグラフィック」ではなく、「時間の中で体験されるもの」として設計できることを学びました。公共空間そのものをメディアとして捉え、モーションデザインの新たな可能性を提示した、Studio Dumbarを象徴するプロジェクトだと感じました。

事例2:OpenAI Brand Film

OpenAI Brand Filmは、新しく刷新されたOpenAIのブランドアイデンティティを紹介するために制作された映像です。新しいアイデンティティは、「人工汎用知能(AGI:Artificial General Intelligence)がすべての人類に利益をもたらす」というOpenAIのミッションを、よりシンプルで親しみやすく表現することを目的に設計されました。AGIとは、人間のように幅広い知的作業をこなせるAIを指します。

印象的だったのは、「ブランドを説明する映像」ではなく、「ブランドを体験する映像」を目指している点です。余白を生かしたレイアウトや、わずかな不完全さを残したアニメーション、鮮やかなビジュアルによって、OpenAIの親しみやすくオープンなブランドパーソナリティを表現しています。

さらに、人と人との自然なコミュニケーションから着想を得たサウンドデザインを採用し、アニメーションに合わせて音が重なり、ロゴやタイポグラフィ、UIなどブランドシステムの各要素が順に現れます。それぞれの要素が一つの映像として組み合わさることで、OpenAIのブランド全体を直感的に理解できる構成となっています。

この事例からは、ブランドとはロゴや色だけで伝えるものではなく、モーションやサウンドまで含めた「体験」として設計することで、ブランドの思想や個性をより自然に伝えられることを学びました。

事例3:North Sea Jazz

North Sea Jazzは、世界最大級のジャズフェスティバルです。Studio Dumbarは、時代とともに進化するフェスティバルの姿を反映し、ジャズだけでなく、フュージョン、ヒップホップ、ワールドミュージック、R&Bまで含む多様なプログラムを表現できる新しいブランドアイデンティティを設計しました。

印象的だったのは、モーションデザインを起点に、リズムや動きをブランドの中心として設計している点です。ライブパフォーマンスならではのエネルギーを、タイポグラフィや色彩、モーションによって表現し、多様な出演者やジャンルにも柔軟に対応できるブランドシステムを構築しています。

さらに、Studio Dumbarはブランドアイデンティティを生成するためのカスタムツールも開発しました。このツールを活用することで、ポスターやWebサイト、会場サイン、映像など、さまざまな媒体に応じたビジュアルを効率的に生成しながら、ダイナミックなブランドアイデンティティを構築できる仕組みを実現しています。

このプロジェクトからは、ブランドアイデンティティは固定されたデザインではなく、変化し続けるコンテンツや媒体に柔軟に対応しながら成長する「仕組み」として設計できることを学びました。また、モーションデザインとシステムデザインを融合することで、ブランドを継続的に進化させる新しいアプローチを実現している点が印象的でした。

Studio Dumbar/DEPT®のものづくり

今回お話を伺ったのは、クリエイティブディレクターのLizaさん、オペレーションディレクターのWouterさんの2人です。

モーションは、ブランドを構成する重要な要素

Dumbarがモーションブランディングへ本格的に取り組み始めたきっかけは何ですか?

約10年前までは、ブランドアイデンティティといえば、パンフレットや名刺、雑誌などの印刷物が中心でした。しかし、ブランドとの接点はWebサイトやSNSなどのデジタルへ移り、スクリーン上で体験されることが当たり前になっていきました。

スクリーンには、印刷物にはない「動き」と「音」という表現があります。だから私たちは、モーションやサウンドもロゴや色、タイポグラフィと同じように、ブランドを構成する重要な要素になると考えました。

もちろん、「モーションへシフトしよう」と誰か一人が決めたわけではありません。私たちはヒエラルキーの強い組織ではなく、チーム全体で意思決定をする文化があります。スタジオ全体でブランドを取り巻く環境の変化を感じ取り、その結果として自然にモーションへ力を入れるようになりました。

その後、コロナ禍によって人々がオンライン上でブランドに触れる時間が急激に増えました。私たちが以前から感じていた変化が一気に加速し、モーションデザインは「あると良いもの」ではなく、ブランド体験を支える重要な要素として認識されるようになりました。

現在では、多くのプロジェクトでモーションのガイドラインまで設計しています。私たちが大切にしているのは、モーション単体ではなく、ブランド全体との一貫性です。

例えば、力強く鮮やかなカラーシステムを持つブランドであれば、モーションもその世界観を反映した動きでなければなりません。色やタイポグラフィと同じように、モーションも「そのブランドらしさ」を伝えるためのデザイン要素の一つだと考えています。

新しい価値は、自分たちで証明する

クライアントにモーションの価値を理解してもらうために、どんなことをしましたか?

新しい価値は、言葉だけではなかなか伝わりません。そこで私たちは約1年間、「モーションを加えることで、ブランド体験がどう変わるのか」を実際に見せるためのプロジェクトに取り組みました。

同時に、社内ではモーションラボを立ち上げ、デザイナー同士が学び合う環境も整えました。モーションデザイナーだけが知識を持つのではなく、ビジュアルデザイナーを含め、スタジオ全体でモーションを理解することが大切だと考えたからです。

また、モーションデザインそのものの価値を社会に伝えるため、街全体を展示会場にするモーションフェスティバル「DEMO」も立ち上げました。

クライアントへの提案でも、「モーションは重要です」と説明するだけではありません。実際に誰もが知っているブランドを例に挙げながら、モーションがどのようにブランド体験をつくっているのかを体感してもらうことを大切にしています。

例えば、Netflixのオープニングを思い浮かべてみてください。短い動きや音だけで、多くの人がすぐにNetflixを思い出せるはずです。私たちが目指しているのも、そうしたブランド体験です。モーションやサウンドは単なる演出ではなく、ブランドを記憶してもらうための重要なデザイン要素なのです。

アイデアは、役職ではなくチームから生まれる

プロジェクトはどのような体制で進めていますか?

私たちは、一般的なデザイン会社のようにディレクターがアイデアを考え、それをチームが形にするような進め方はしていません。シニアもジュニアも、インターンも含めて全員がアイデアを出し合い、その中から一番良いものを育てていきます。

リードデザイナーはプロジェクト全体の品質やプレゼンテーションに責任を持ちますが、「自分のアイデアを形にしてもらう」存在ではありません。アイデアを出す段階では、あくまでチームの一員です。

私たちは、経験が長いからといってクリエイティビティが高くなるとは考えていません。もちろん、経験によって判断のスピードは上がりますし、制作へのアプローチも磨かれていきます。でも、クリエイティビティは誰もが持っているものです。だからこそ、役職や経験年数に関係なく、誰もが平等に発言できる環境を大切にしています。

プロジェクトマネジメントは、言ってしまえば「終わりのないパズル」です。案件の延期や追加依頼は日常的に起こりますし、むしろ計画どおりに進むことの方が珍しいくらいです。そのたびにチーム編成やスケジュールを調整しながら、最適な体制を組み直しています。

私たちのスタジオには40人のメンバーと4人のプロジェクトマネージャーがいます。隔週の定例ミーティングに加え、日々コミュニケーションを取りながらリソースを調整しています。ただし、残業を前提としたスケジュールは組みません。また、それぞれのデザイナーの働き方や価値観も尊重しています。

私たちにとって何よりも大切なのは、クオリティです。品質を維持できないと判断した場合は、無理に案件を受けることはせず、クライアントに延期をお願いすることもあります。良いものをつくることを最優先にする。その姿勢は、スタジオ全体で共有している価値観です。

訪問したメンバーの声

金(モーションデザイナー)

Studio Dumbarのオフィスは、DEPTの開放的な空間の一角にチームが集まって仕事をしており、終始和気あいあいとした雰囲気が印象的でした。

インタビューを通して特に印象に残ったのは、これからの時代は媒体がデジタルへ移行していくという先見性のもと、モーションデザインを単なる表現手法として捉えるのではなく、デザイナー以外の職種も巻き込みながら「モーションとは何か」を探求するチームビルディングを実践していたことです。その姿勢から、Studio Dumbarがモーションアイデンティティの先駆者と呼ばれる理由を実感しました。

また、取材時には「来年、DEMOフェスティバルを東京でも開催したいのだが、誰かつないでもらえる人はいないだろうか」と相談を受けていました。そして今回、DEMO Festival 2027の東京開催にあたり、NEORTの皆さまをご紹介することができたのは、私にとっても大変光栄な出来事でした。

石塚(アートディレクター / デザイナー)

TRANSAVIAやVBMSなどの案件を手掛けていた当時のDumbarは、現在のようにモーションデザインを代表するスタジオという印象ではありませんでした。しかし、気づけばモーションデザインの分野で唯一無二の存在感を確立しており、現在のポジションをどのように築き上げたのかを直接伺えたことは、非常に貴重な機会でした。

その背景には、時代の変化をいち早く捉えながら、圧倒的なクリエイティブを愚直に積み重ね続けてきた努力がありました。その姿勢に強く刺激を受けるとともに、SHIFTBRAINとして、そして1人のクリエイターとしての私自身も、まだまだ学びと実践を積み重ねていかなければならないと改めて実感した、非常に学びのあるインタビューでした。

岡田(プロデューサー)

Studio Dumbarは、まさにモーションブランディングの先駆者のような存在だと思っています。

ただ、印象的だったのは、彼らが最初から「モーションブランディング」という領域を明確に掲げていたわけではないという点です。コロナのタイミングで、新たにモーションブランディングに注力していくという方針を定め、そのためにしっかりと投資を行った。その意思決定と行動力が、非常に素晴らしいと思いました。

新しいポジションを築くためには、言葉で掲げるだけではなく、それを証明する実績が必要になります。そして、その実績は自然に増えていくものではなく、営業ツールとして機能するアウトプットを意図的につくりにいく必要がある。Studio Dumbarは、そのための投資を約1年間続けてきたと伺い、方針を立てた上で迷わず実行することの重要性を改めて体感しましたね。

これは、僕たちも含めて、日本の企業やエージェンシーが見習うべき部分だと思います。新しい領域でポジションを築くには、まず自分たち自身がその可能性を信じ、時間やリソースを投資し、実績として形にしていく必要がある。Studio Dumbarの取り組みからは、ただ新しい領域を掲げるだけではなく、それを自分たちの強みに変えていくための覚悟と実行力の大切さを強く感じました。

坪井(プロジェクトマネージャー)

PMとして特に印象に残ったのは、「リソース管理は終わりのないパズル」という言葉でした。プロジェクトは予定通りに進むことの方が少なく、クライアントから急な追加依頼が入ったり、スケジュールが延期になったりして、そのたびに、どう調整できるのかを考え続けるという話を聞きながら、「やっぱりどこの制作会社も同じなんだ」と思わず共感してしまいました。

また、モーションブランディングを新しく取り入れるには、デザイナーを採用するだけではなく、社内で共通認識をつくり、クライアントにも価値を伝えて提供し、品質を維持できる体制を整える必要があるという話も改めて学びになりました。

さいごに

今回の訪問を通じて、モーションは単なる演出ではなく、ブランドの個性や世界観を伝える「デザイン言語」の一つであることを改めて実感しました。

SHIFTBRAINでも現在、モーションデザインの体制づくりを進めています。だからこそ今回のお話は、チーム全体の考え方や提案の仕方、社内で学び合う文化づくりまで含めて、多くのヒントを得られる時間になりました。

この学びを今後のプロジェクトにも活かし、これから私たちもブランド体験をより豊かにするモーションデザインを、企画・デザイン・実装まで一貫して提案できるチームを目指していきたいと思います。

次回はいよいよ、シリーズ最終回。お楽しみに!

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