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「属人性」と「責任」。それが「人間らしい」デザイナーのあり方だと思うんです。| 宇都宮勝晃(KEI inc.)

iDIDメディア編集部
iDIDメディア編集部
2026.09.01

クリエイターのこれまでとこれまでのキャリアを追いかける「クリエイターインタビュー」。今回お話を伺うのは、6月にKEI inc.を設立した宇都宮勝晃さん。そう、宇都宮さんは2023年にiDIDがメディアとして初めてインタビューをさせていただいた方でもあります。あれから3年、宇都宮さんにどんな変化があったのか、そしてこれからどこへ向かっていくのか。宇都宮さんの「現在地」をここに記してみたいと思います。

お話を伺った方
  • 宇都宮勝晃|Katsuaki Utsunomiya

    KEI inc. Founder, Art Director, Designer

仏師への師事後、ウェブプロダクションにてディレクションに携わる。38歳から独学でデザインを学び、40歳でデザイナーに転向。2019年Shhh inc.共同創業を経て、2026年6月KEI inc.を設立。

三年前の「思い切った行動」が、新たな自分へと変化するきっかけに

前回は2023年6月のインタビューで、あれから3年が経ちました。その後、宇都宮さんの中で状況や考えの変化などはありましたか?

宇都宮:今振り返ってみると、実はその三年前のインタビューが、デザイナーである自分にとって最も大きな起点だったのではと思っているんです。当時の自分は「表へ出ること」への抵抗感がとても強く、38歳でデザイナーとしてスタートしたことへの後ろめたさ、経験値の少なさもあって「自分なんて…」という意識の強いところが、実はありました。

ただ、その時の編集部さんからのお話が誠実だったこともあり、思い切って引き受けてみることにしました。当時の自分としては、初めて恐る恐る外の世界へ突然出てみた、というくらい、思い切った行動だったんですよね。

2023年のインタビュー記事。iDIDとしてもメディア初インタビューでした!
https://idid.team/articles/interview/shhh/

宇都宮:そして、インタビュー記事が世に出てから、急に色々な物事や出会いが転がり始め、結果的に自分自身のデザイナーとしての流れも変わっていくことになりました。

例えば、イベント登壇や講師のお話など、以前であれば「自分程度のものが…」と辞退していたようなお声がけにも、徐々に思い切って応えていくことになっていったのです。それを積み重ねていった結果、今振り返って感じているのは、「自分で苦手だと思い込んでいたこと」や「他者からの予想外な頼まれごと」にこそ「自分を変化させていく可能性」が詰まっていたんだな、という風に今は捉えているんです。

未知のことに対して少しずつ応えていくことで、新たな発見があったと。

宇都宮:苦手なことでも、経験を積み重ねていけば意外とできるようになるものですよね。そういう「やってみたら意外にできること」を少しずつ広げていった期間だったのだろうと思います。初めての経験の中には、自分が変わっていく機会や、自分の「潜在的な強み」が眠っていて、そこに対して真剣に向き合いさえすれば、必ずその先で「新しい別の自分」が待っている。この「未知の領域に応えていくことがもたらすもの」が、この三年で一番の発見だったように思えます。 

「小さな体制」と「最小限のプロセス」のプロジェクト経験が、KEI設立の動機に

その三年を経て、宇都宮さんはShhhを卒業し、KEIを立ち上げることになるわけですが、ターニングポイントになったお仕事などはありましたか?

宇都宮:自分のデザイナーとしての考え方を大きく変え、独立の背景にもなったプロジェクトを三つ、挙げることができます。振り返ってみるとこれらには共通点があって、それが「最少人数のプロジェクトメンバー」で「最小限のプロセスで進行したこと」でした。

例えば、デザインに入る前段階として、参考サイトを用いてすり合わせをしたり、ムードボードを作ったり、ワークショップを開いたり、プロトタイプを作ってみたり、といった形で事前共有を行うようなケースは多々あるかと思います。ですが、これらのプロジェクトではそのようなデザインプロセスを一切採用しなかったんです。

三つのプロジェクトについて、具体的にお伺いしていきます。まず、2023年10月に公開された『Analog Foundation』。

宇都宮:このときは、担当のブランド統括マネージャーとShhhの二人、計三名による「小さな体制」でのプロジェクトでした。そして、その担当の方がブランドのビジョンを非常にクリアに持っている方だったんですね。

ここまで明確に、ブランドとしてのありたい姿を示すことができる方を前に、ふと思ったんです。「この先、デザインの他に何をする必要があるんだろうか」と。同時に、手順めいた段階を踏むこと自体、野暮な行為のようにも感じられてきて。先方からはすでに全てをいただいている訳なのだから、こちらとしてはそれを元に全力でお返しすれば良いだけなんじゃないか、と。

そこで基本的な設計プロセスを終えた段階で、デザインをすぐに作りそのまま提案したところ、その場でとても気に入って下さり、合意をいただくことができたんです。この「プロセスの無駄のなさ」が、とても自分のなかでは清々しくて気持ちよかったんですね。こういった「真剣な球の投げ合い」のようなものづくりはとてもいいな、という発見をしたのがこのプロジェクトでした。

Analog Foundationのブランドサイト。ブランドが持つありたい姿「オーセンティック、品格、優美さ」に対して、
「文字」と「余白美」によってらしさの佇まいを構築
https://analoguefoundation.com/ja/

このプロジェクトも偶然から始まったんですね。次が『DAIKUHARA Kintsugi and Antique』。2025年の6月公開のお仕事です。

宇都宮:DAIKUHARAは、金継師であり代表の大工原さんと共同運営されているパートナーの方が、Shhhのコーポレートサイトをとても気に入ってくれて、長いお手紙のような丁寧なご依頼をいただいたんです。Analog Foundation以来の、小さな体制でのプロジェクトでした。

DAIKUHARAは金継ぎと骨董を取り扱うお店で、お仕事場にも直接お伺いさせていただいた上で、インタビューを行っていきました。そしてここでもまた、Analog Foundationのときと同じことを感じたんです。これだけ語るべき言葉とありたい姿のイメージを持たれており、かつ、私たちがつくるものに信頼してくださっている。ならば「受けとったものをそのまま返す」やり方がいいな、と。

そのため、Analog Foundationと同じくロゴ制作からサイトデザインまで、受け取った言葉と体験を、そのまま一発勝負のようにデザインとしてお答えしていくプロセスによって進めていきました。当時所属していたShhhのプロジェクトは比較的大手企業が多かったため、関わるメンバーも、合意形成のためのプロセスも多いところが特徴的だったのですが、このようなケースであれば「プロセス自体を解放していく」方がむしろ素直な行為でもある。そういうことを再確認したプロジェクトでもありました。

「DAIKUHARA Kintsugi and Antique」のサイト。
金継ぎによって現れる新たな器の景色と、陰翳を好む日本美の根底に流れる美意識の記憶を継承したデザインになっている
https://daikuhara.jp/

三つ目が『心拍(Shinpaku)』。2025年の8月に公開されたサイトです。

宇都宮:『心拍』は、その運営元である株式会社マガザンのコーポレートサイトや関連プロジェクトであるSHUTLのサイトを作らせていただいたりと、すでに関係性がある状態からお声がけをいただいた新たなプロジェクトでした。こちらも代表の方との小さな体制によるプロジェクトであった事から、前の二つのプロジェクトと同様、「聴く・知る」と「作る」以外の中間はほぼ存在しない最小限のプロセスで進めていきました。

ちなみに、実際にデザインを見せるときは、絵だけではなく、その経緯や背景の説明もされるわけですよね。

宇都宮:はい、もちろんです。前提として、どのようなプロジェクトであっても、「文脈理解」と「ありたい姿」の二者をより正しく把握する事がデザインの起点となりますし、そこに則ったご提案となります。ただこの二者のうち、自分がより重きを置いているのは「ありたい姿」の方です。その企業・ブランドは、これからどうありたいのか?その像は代表の方の中にしかなく、語りえないものだからです。

だからこそ自分は代表の方へのインタビューを一番大事にし、そこからコンセプトやデザインのアイデアを考えていくようにしています。例えば、心拍なら「日本の田舎風景と最高品質との共存関係」というテーマが代表の方にあり、その語られた言葉を元に「共創型農業」の新しい地平を感じられる「広い田園風景」と、家族・友人・ゲストとの関係性を伝える写真とともに世界へプレゼンテーションできる「洗練性」を軸に、タイポグラフィに気を配ったデザインを提案していきました。

「心拍(Shinpaku)」のサイト。「日本の田舎風景と最高品質の共存」をテーマに、土臭さと洗練、緊張感と心地よさ、など
相反する両者の同居と余韻を残すサイトを目指した
https://shinpaku.co/

これらのプロジェクトを経て、宇都宮さんの中で、ミニマムな体制とデザインプロセスの面白さを発見していったわけですね。

宇都宮:関係者の多い大規模プロジェクトにおいて、仕組み化されたデザインプロセスは合意形成を進めるうえで有効な手段ですが、そのプロセスの手順の中には、自ら予防線を張り、予定調和へ向かっていくような進め方に思えてしまうことも、時にはありました。

発注側は相手を信頼して話す。デザイナーはその話を充分に聴き、知る。それが終われば、あとは「相手がありたいと願うブランドの姿」をより精度高く実現していくために全力で尽くしていく。それでいいじゃないか、と。

その点、発注者とデザイナーのほぼ一対一で構成された最小プロセスの中には、内容の品質だけで勝負をするほかない、言い訳のできない「緊張感」と「真剣さ」があります。そしてこの緊張感が、ときに品質を飛躍させたりもするんです。作り手にとってはある種の潔さがあり、このとき「人が人に向けてものをつくる行為」が持つ「根源的でピュアなもの」に、自ら触れているような感触があったんですね。

心拍のサイトでは、「ひとつの詩や物語に触れた時の余韻」を意識して制作した

宇都宮:そしてそのような一対一のプロセスで進められるプロジェクトは「唯一性」を持った強度のある仕事に結びつきやすい。関係性そのものが既に固有なものだからです。逆に「一見、再現性があり、民主的で共創的なデザインプロセス」には、実は見失ってしまったものも多くあるのではないか?とも。こういった最小限の関係性と、ミニマムなプロセスでデザインする機会をもっと増やしていきたい、という考えの延長に、今回のKEIの設立があったと思います。

「アウトプットのないデザイン」という新しい発見

「聴くデザイン」という独自のプロジェクトにも関わった
https://note.com/k_utsunomiya/n/n920f7132c938

いわゆるウェブデザインとは違う、独特なプロジェクトにも関わったそうですね。

宇都宮:そうなんです。「聴くデザイン」と自分では呼んでいるのですが、ある経営者の方へ、毎週1.5時間のインタビューワークを約5ヶ月間行ったプロジェクトで、こちらも今のKEIにつながる重要なお仕事でした。

この経営者の方の会社は業務領域が多岐にわたっており、自社をどう説明すればいいのか、プレゼンテーションに苦心されていました。そこで私のiDIDインタビューや、出演したPodcastに触れ、直感的に「宇都宮さんと対話すれば何かが見つかるかも知れない」と感じたそうです。「デザインをお願いしたい」ではなく「対話をしてみたい」というところから始まった、一見変わったプロジェクトでした。

これまでクライアントワークで行っていたインタビューは、常にロゴやデザインなどのアウトプットを前提としたものでした。それがこのプロジェクトでは「アウトプットを必要としない」インタビューになる。それだけで話への聴き方が大きく変わるんですね。「聴く」という行為の奥深さに触れるような体験でした。

実際に使われたインタビューガイド。この後クライアントの全発言を言語化・分類・抽象化・関係性づくりを行っていった

宇都宮:また、同時に「これは『こと』がはじまる前のデザインだ」という気づきもありました。ここで、代表の方のお話を深く聴き、知る、ということさえできれば、どのような制作対象であれ、必ず一貫性と強度を持ったふさわしい表現を作ることができる、という確信を持つことができたんです。「自分は今後、このやり方をしていけばいい」という指針になる重要なプロジェクトでした。

ちなみにKEI設立後、このプロジェクトは実際にリブランディングプロジェクトとして動き出しており、現在はロゴデザインから、コピーライティング、撮影、ウェブサイト制作までをスコープに進行中です。まだまだ制作としてはこれからですが、強度という点で、これまでとは大きな変化があることを毎回のセッションごとに感じています。

CREATIVE CLASSで感じた、人の「わからなさ」と「計り知れない可能性」

2025年8月には、クリエイターのためのオンラインスクール「CREATIVE CLASS」で講師も担当されました。こちらも宇都宮さんにとっては新しい挑戦ですね。

宇都宮:はい、最初は断る理由しかなかったです(笑)。業界を代表する方々が講師に控えていて、講師経験がまるでない自分がトップバッターという状況だったため、果たして自分に務まるのか、とても悩みました。ただ、ご依頼いただいたということは「この人ならできるはず」と思ってくれているわけで、そこにあえてのっかってみることで、また新しい自分を発見できるかもしれない、と。それが最終的に決断した理由になりました。

講義を終えてみて宇都宮さん自身が感じたこと、得たものはありましたか。

宇都宮:ひとつは、多くの方々によって語られてきていることですが、「教えることこそ、一番の学びである」という実感です。「教えること」を通じて、分かったつもりだったことが納得感をもって理解されていきました。カリキュラムづくりひとつとっても、それまでの知識や経験を全てかき集め、再構築していくプロセスそのものを通じた「学び直しの体験」でもあります。それはこのような機会がないと得られない体験でした。

もうひとつは、「人の成長や可能性って本当にわからない」ということ。CREATIVE CLASSではひとつのお題に対して、10人それぞれが違うものの見方で、異なるアプローチで回答していく、言ってみれば「10人分の公開競合プレゼン」です。

競合プレゼンでは通常、他社の提案内容は見れないわけですが、ここでは受講生たちが本気で取り組んだ「10人の提案」を一度にまるごと見ることができ、かつ講師からのフィードバックも得られるという場だったので、二週間レベルで大きな変化を起こす人や、その瞬間を目の当たりにしました。意欲と柔軟性によって成長曲線が大きく変わっていくことへの驚きと、人のわからなさと、自分ひとりの想像では計り知れない可能性。その面白さを発見できました。

教えること自体にはじめて向き合った機会でしたが、当初考えていた予想とは、結果的に全く違う発見や学びを得ることができた、という点が面白かったですね。

「属人性」と「責任」。それが今後求められていくデザイナーのあり方だと思う

2026年6月に設立したKEI inc.のコーポレートサイト
https://kei-inc.jp/

そして、2026年6月にKEI inc.を設立します。この設立背景について、もう少し聞かせてください。

宇都宮:設立背景はとてもシンプルで「つくること」と「つくるもの」の純度を高めていきたい、ということです。「つくること」への純度を高める、とは先ほど話した「特定のデザインプロセスの手段」を手放し、再現性や効率性、予定調和から離れていくというもので、「つくるもの」への純度を高めることは、AIによる環境変化に大きく起因しています。

平均解が溢れる世の中になるほど、それだけでは満たされない「非効率な偏りや過剰さの密度」に人は心動かされていくのではないか。また、そのような合理を超えたことを実際に行っている企業やブランドにこそ、説得力と共感、そして価値が宿るようにもなっていくのではないか、と思っています。

だからこそ、これからもデザイナーであり続けたいのであれば、より再現性から離れて、属人的で偏った世界に足を踏み入れていく必要がある、と改めて思うんです。別の言い方で言うと「やらないことを明確にする」ということでもあります。自分の人生を使って何をして、何をしないのか。それをより意識していきたい。その表れがKEIの設立、と言い換えることもできると思います。

KEI Inc.のブランド定義。本質(らしさ)と美質(ありたい姿)を見つめ直す

宇都宮さんは、normalize.fmでは「自分の欲望が大事」そして「デザイナーの役割は責任を持つこと」とも言っていました。それは人の「意志」でもあり、意志や欲望とは、AIが持っていない「人間らしさ」とも言えますよね。

宇都宮:人間をかたち作っていくのは「意志」と「欲望」だと思っています。なので、例えばデザインの提案ひとつ取っても、「私はこう思う」という意志を示すことがもっと大事になってくるのではないか、と。そして同時に、一人の人間として「つい、やってしまう」「つい、時間を忘れて考え続けてしまう」といった自分の「欲望」にも向き合っていく。自分の場合はシンプルにそれが「つくること」で、そのあたりの背景がKEIの設立にそのまま直結しています。

KEIのサイトにある「属人性こそ、価値を生む源泉である」という一説も印象的です。ネガティブに捉えられがちな言葉ですが、別の見方をすれば、属人性とは「人間性」のことですよね。

宇都宮:はい、属人性とは「世界で唯一のものである」という認識が出発点なんだと思っています。例えば、KEIという社名の元でもある、器に表れた偶然性や傷、さらには修復の跡すらも茶道や陶芸の世界では「景色」と呼んで愛でたり、面白がるようなこと。そういった「感受性」こそ人間にしかないものなんだと思うんです。

現在は、なぜ外部のデザイナーへ、わざわざデザインを依頼するのか?という意味や意義の問い直しがAIの文脈上ではじまっています。デザイナーに依頼する行為自体が、一部の限られた特別なものになっていくのではないかと思うことすら、自分にはあります。となると、依頼を受けるデザイナーの立場としては、その会社やブランドを「唯一のもの」として、つまり「情報ではなく、世界に一つしかない唯一性を持った景色」として取り扱っていくこと、がデザイン態度として求められるのではないか?自分の生存戦略も含めて、そういったひとつの世界線も考えられるんじゃないだろうか?と思うようになってきたんです。

最適解がAIに委ねられれば委ねられるほど、相対的にAIが介在できない「意味」や「意志」こそが、より重要な価値基準になっていくかもしれない。だからこそ「自分はどう思うか?」「自分はどう感じるか?」を内省し、意志を持って提案していく。つまり「それを『誰が』言うか」ということと、「私は『こう思う』」と明言する覚悟や責任が、これまで以上に求められるようになってくるのではないか、と。デザイナーという職能が「より属人的なアートディレクター」に移行していくようなイメージが、ニュアンスとしては分かりやすいかもしれません。

デザイナーの「覚悟」と、クライアントの「目の前のデザイナーへの信頼」

先ほどの「プロセスを省いた提案」に関しても、「このデザインが最高かは分からないが、対話をしてきたあなたとの信頼がある。だからこそ、「このデザインを信じる」というような、エビデンスや集合知とは違う「人間同士の信頼」がポイントなのかなと感じたのですが。

宇都宮:いわゆるプロセスを飛び越えて属人性に重きを置けば、そこには異常値も発生すると思います。そこを許容できるかどうか、という軸になるのが「目の前にいるデザイナーを信頼する」ことになるかもしれません。デザイナー側も「これが今回におけるもっともふさわしいデザインです」と伝えることには覚悟や責任が出てきますよね。そこにAIとの役割の棲み分けのひとつがあると思います。

なお、自分もAI自体はバックオフィスはじめ制作プロセス全般において使用しています。直接的なデザイン制作そのものに対してはまだ活用しきれていない部分も多いですが、クオリティは良い意味で大きく変わり、時間の使い方も変わってきました。その意味でとても肯定的にとらえています。

自分にとっては、クライアントが語る言葉も、AIによる生成物も、全て等価だと思っているんですね。自分のなかに取り込める情報や視点は多様であった方がいい。そのうえで「自分は何を選び、どう考えるか?」の「回答」こそが価値をもたらすと考えているんです。

「自分がどう思うか」の判断をデザイナーがすることが、AIとの役割分担にもなるわけですね。

宇都宮:デザインする上での過程にもたくさんのジャッジがあるはずなんです。例えば「この余白感は、なんか気持ち悪い」といった「身体的な判断」も、そのひとつです。「複数の視点と選択肢があって、今回はどっちを採るべきか」の判断もひとつですよね。その細かな「中間点におけるジャッジ」が「その人のやるべきポイント」で、それによって積み上がってきたものが、その人の提案におけるひとつの「責任」になるんだと思います。

自分の欲望に忠実であれば、ユニークなものはむしろ勝手に生まれていく

今後の宇都宮さんの動きについて、またこれからやっていきたいと思っていることを教えてください。

宇都宮:基本的には、これまでの三年間と同じことを行っていくつもりです。「これまでやったことのないこと」「苦手だと思っていたこと」のようなお話を、面白がる余地あるものとして積極的に引き受け、自分なりに全力で取り組んでみる。そしてその先にある、新しい自分との出会いに期待してみる。そしてそういった様々な点と点がつながった先に、どんな景色が待っているかを楽しみにしたいですね。

また、頭で計画をしたり、先を読もうとせず、「つい、考えざるを得ないもの」という自分の欲望の部分になるべく向き合いたいと思っています。ココ・シャネルによる「エレガンスとは拒絶である」という有名な言葉があるのですが、それを自分の中での合言葉に、「気づいたら、思ってたのと違うところにいた」を目指せたらいいなと思っています。

2026年8月は、LIG Agentさんのオンラインイベントの登壇や、ウェブとグラフィックの横断をテーマにした
グループ展「ま」への参加など、積極的に新しい領域に踏み込んでいる

「エレガンスとは拒絶である」とは、面白いですね。どういう意味ですか?

宇都宮:「エレガンス」って「洗練」とか「上品」とかのイメージをつい持っちゃいますよね。でも実は語源を辿ると違っていて、ラテン語で「選び取る」という意味なんです。要するに「選び取ってきた態度の累積」なんですよね。 私は何をして、何をしないのか。私は世界とどう向き合っていくのかっていう表明のことなんです。そういう意味で、より「自分の指針」を明確にしていくことをこれからは意識したいと思っています。

70歳になってもデザイナーを続けていたいとおっしゃっていたのが3年前。改めて今、デザインと年齢について、宇都宮さんが思っていることを教えてください。

宇都宮:こちらは三年前と変わらずというか、むしろある種の使命感のように捉えだしているところがあるかもしれません。例えばグラフィックデザインや建築の世界においては、既にこれまでも、現在も、これからも、年代関わらず第一線で活躍されている先輩は当たり前のようにいらっしゃいますが、デジタルデザイン業界は歴史自体が浅いためどうしても少ない。なので自分自身がひとつのサンプルになっていけたらいいなと思ってたりします。

さらに最近はこの意味をもっと広く捉えて「人生のステージごとで、各々が好きに生きたらいいんじゃない?」とも捉えています。環境、社会、年齢、身体、人生のステージ・役割など、それぞれ変化と違いは当然あります。そんななかで「こうあるべき」のような、単一的な価値観でデザイナー像を作る事や、人を縛ることほど小さなものはないのでは?と感じることも多いためです。

「自分は何に楽しさや喜びを感じるのか?」という欲望に忠実であれば、ユニークなものや面白いものは、むしろ勝手に世に生まれていくと思うんです。そして、それが多様であればあるほど、デザインの世界も楽しい。自分自身も楽に生きられる。そういった意味でもひとつのサンプルとして示せたらいいな、と。

水の中をゆらゆらと漂うようなKEIの名刺

お話を伺っていると、宇都宮さんのやっていることが、デザインの範疇を超えはじめてきていますよね。「変化することの面白さ」ということに宇都宮さんの軸足が変わってきているようにも感じます。

宇都宮:今言われてはじめて考えたことではありますが、自分にとってデザインは「変わっていくこと」のひとつの手段であり、変わっていくための営みなのかもしれません。自分にとって「やらざるをえない」と感じてしまうのはやっぱりデザインなんです。一方でデザインによって発見する自分の「生き方の変化」に関心がある。デザインを通じて「生きる営み」「変わっていく営み」に興味が出ているのでは、とも思います。

宇都宮さんが人生で楽しいと思っていることは、苦手なことを克服したり、新しいことに挑戦することで新たな自分を発見すること=「自分とは何か」を探り続けていくことなのではないかと感じました。

宇都宮:変化していくことの面白さって、人生経験をすればするほど、「なかなかない貴重なことだ」ということがわかるからだと思います、きっと。貴重な経験だからこそ、そこに面白さを感じるのかもしれないですね。

あなたは、あなたが食べたもので、できている。

Credits

Interview, Text, Edit:
仲村直
(iDIDメディア編集部)

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