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“プリミティブな方法論”が価値を持つ時代がきっとくる。 | Nue Inc.[GOTO-CHI CREATIVE!京都編]

iDID編集部
iDID編集部
2025.06.18

ご当地クリエイティブ第四弾は、やってきました、京都。企業ブランディングから行政の社会課題解決までを独特な方法論で実践していくNue Inc.さんにお話を聞いてきました。周囲を山に囲まれ、鴨川が街の中心を流れる京都という磁場から発揮されるクリエイティブとはどんなものなのでしょうか。キーワードは「野生のフレームワーク」「飲みの場」です。それではどうぞ!

今回お話を伺った方々
  • 松倉 早星

    NUE Inc.

  • 西 怜香

    NUE Inc.

  • 北山 里菜

    NUE Inc.

リサーチ・プランニング・クリエイティブを強みとした領域横断型のコンサルティング・ファーム。 企業・行政・市民に寄り添うパートナーとして、ブランド、プロダクト、サービス、デジタル、イベント、事業戦略など 課題解決に最適な戦略で新たな挑戦・変化を生み出している「プロの生活者集団」。

https://www.nue-inc.jp/

京都とは……「猫と鴨川とディストピア」

共創自治区SHIKIAMI CONCON

松倉さんは大学時代に京都に、その後東京を経て、また京都に戻っているんですよね。西さんと北山さんもそれぞれ東京、大阪からと、みなさん引き寄せられるように京都に来ています。

松倉:
僕が京都を好きなのは「飲み屋が多い」のが一番の理由なんですが、なんといっても京都での大学時代がとにかく楽しかったんです。京都って自分の生き方を貫くおじいさんから、アーティストに研究者まで、変な人が多いんですよ(笑)。

そこで起こる化学反応が面白い。東京中心的な流れへの違和感もあったし、当時の京都にはデジタル広告のプランナーが皆無だったので、京都に戻れば掘り起こせれるかな、とも思っていましたね。

西:
私は、前職がイベントの企画制作中心で、子どもが小学校に上がるタイミングで「仕事と生活を対立するものにしたくないな」と思っていたんです。そのときNueが「最後の社員」を募集していて、応募してみたらまんまと受かって(笑)。

当初はフルリモートでOKという条件だったんですが、面接のときに訪れた「共創自治区SHIKIAMI CONCON」がとにかく面白かったんです。こんな面白い環境が手に入るのに、リモートはつまんないだろうと。それで家族ともども引っ越すことに決めました。

北山:
前職はバングラデシュに自社工場を持つアパレル会社で、貧困地域での雇用や児童労働の問題に向き合っていました。アートディレクターのアシスタントとして撮影やデザインにも少し関わっていて、気づけば「この仕事をずっとやっていたい!」と思うように。

そこから、もっと本質的な課題とクリエイティブの両方に関われる仕事を探し始めたんですけど、そんな企業には中々出会えないし、業界未経験って本当に門がせまくて。そんな中、たまたまXでNueの採用募集のポストが流れてきたんです。「学歴も経歴も関係ない」と募集要項に書いてあり、すぐに応募しました。それが京都に来るきっかけでしたね。

みなさんから見る京都はどんな街ですか。京都の面白いところを教えてください。

松倉:
小さい街なので、街を歩けば必ず友達に会える。歴史や伝統がある反面、7000万人の旅行客やインバウンドがいる。まるでディストピアSFみたいな世界観を楽しんでいます。

西:
圧倒的に鴨川です。どこを見ても山が目に入るし、気軽にアクセスできる自然環境がありながら、飲食店や書店などの個人商店が元気で、人の顔がきちんと目に入ってくる。自転車があればどこでもいける。よく友人も会いに来てくれますし、お気に入りの街です。

鴨川

確かに、京都は美術館、お寺、本屋、ギャラリー、パン屋さんと、都市と自然と観光名所がひとつに凝縮されていて、自転車でまわっていけますよね。

北山:
私は猫と暮らしているのですが、京都はつくづく猫みたいな街だと思います。大阪出身の私からすると一見さんお断りみたいな文化はカルチャーショックで、緊張感があって…独自の空気が際立つお店や人が多いという印象でした。

でも、何度か通うとじわじわ距離が縮まっていく。馴染みのお客さんをとても大切にしてくれるので、いつの間にか「ただいま」と言える距離感になる。その振り幅が猫みたいで。一度訪れただけでは分からない街ですね。

京都は、文化都市の中でも「行政の課題」が現れやすい

Nueさんは場づくり/まちづくり(エリアプランニング)と社会課題解決(地域雇用、人口現象、空家)を得意とされていますよね。たとえば「崇仁新町」は、京都市からの依頼ではじまったプロジェクトだそうですが。

松倉:
このプロジェクトは、京都市立芸術大学が移転予定だったエリア「崇仁地区」で、工事が始まるまでの2年半を使って地域を活性化してほしい、というものでした。このエリアは歴史的に複雑でネガティブなイメージも強く、そこをどう刷新できるかもひとつの課題でした。

リサーチで地域をまわり、現地の人と話す中で分かったのは、この土地には「とても魅力的な人たちが多く」「ご飯やお酒も驚くほどにおいしい」ということだったんです。それならば、「みんなでご飯を食べて言葉を交わせる場所」があればいいんじゃないかな、と。そこから着想して「崇仁新町」という屋台村をつくることにしたんです。

「崇仁新町」は現地の人と、田の字地区とのちょうど境目のエリア。ここで町の人と崇仁の人たちが同じテーブルで「ご飯を食べて、お酒を飲んで、言葉を交わす」。分かり合えないことがあるとしても、まずはそこからだと思ったんです。結果、立ち上げから2年半という限られた期間でしたが、市内から府外、国外まで来場者が42万人も来てくれて、報道メディアを通じて崇仁地区の活気を発信することができました。

このプロジェクトの後、京都における崇仁地区のイメージは変わりましたか。

松倉:
おそらく、とても綺麗にひっくり返せたと思います。今このエリアに対してネガティブな印象を持っている人はほとんどいないんじゃないかな。当初は崇仁地区内の人たちからも、「崇仁」っていう名前をつけることはやめたほうがいい、と言われていましたが、僕たちは今の「崇仁」をみなさんには誇らしく思ってほしかったので、あえてこの名前を残しました。屋台村が完成したとき、現地のおじいちゃんやおばあちゃんが泣いて喜んでくれているのを見て「この人たちが喜んでくれたのならもうOKだな」と思ったのを覚えてますね。

変わって「ARTISTS’ FAIR KYOTO」は、京都府のお仕事ですね。

松倉:
京都は芸大が多いのですが、教育機関があるのに作品を売る「マーケット」がないという課題があったんです。僕も芸大で教えているのですが、多くの子は30歳までに食べられないとやめてしまうのを残念に感じていて。そんな中、京都府から現代美術家の椿昇さんのチームに、僕も含めてこのプロジェクトの依頼があって。ずばり「ダイレクトにアーティストが作品を売れる場所をつくりたい」ということでした。

このプロジェクトをやってよかったのは、新たなコレクターが国内でたくさん生まれたことです。美術館の場合、作品に対して一定の距離を取るんですが、僕らは京都における「混沌」をモチーフに、作品を「考えられないほど近い距離」で閲覧できる設計になっています。そうなると作品に対して「眺めるもの」ではなく「買うもの」としてのリアリティが生まれるんです。いいと思った作品がどんどん買われていくのに感化されて買いの交渉が始まっていき、大学生が、どうしてもこの作品がほしいからとアーティストと直接交渉したりもするんです。

僕らは立ち上げから3年まで並走して次のチームに引き継いだのですが、今では世界中からバイヤーが来るようになり、3日間で3,000から5,000万を売り上げる大きいイベントになりました。

「Kyoto Dig Home Project」は京都の空き家問題に関わったお仕事ですね。

松倉:
これも京都市からの依頼で、CONCONにもいる都市機能計画室、バンクトゥと一緒に担当した案件です。京都は空き家が多いことが市民レベルでもわかるぐらい深刻で、市でプライオリティが一番高いのがこの空き家問題です。僕たちも以前から、京都の課題に対してポジティブに動かせることをやりたいという話はしていて、ちょうど空き家のプロポーザルの話が出たので、CONCONでチームを組んで出たという経緯です。

ここでは「DIG」をテーマに、空家物件を掘り出し物として楽しんでもらえるようなコンセプトにしました。サイトもレコードのA面B面のようになっていて、移住者向けページは行政ではあり得ないポップなデザインに、空家相談向けページは整然としたページにしています。ここでは空き家問題を自分ごととして捉えてもらうために「どうする空き家?カードゲーム」というボードゲームも作りました。

松倉:
また、日本中の空き家対策をうまくやっている面白いプレイヤーを呼んで、「京都空家会議」というイベントも開催しました。当日は現地・オンラインを合わせて延べ700名を超える人が参加して、みんなで空き家の可能性の未来について考えました。

このプロジェクトは2022年から3年ぐらい継続してやっているそうですが、京都市としても、意義や成果が見えてきているということでしょうか。

松倉:
全力を出していかないと人口も増えませんから。3年前ぐらいから制度を変えていくための動きを継続してやっていて、銀行も昔だったらボロボロの平屋や接道していない家にはお金を貸してくれなかったのですが、なんとかうまくできる方法を銀行と相談したりと、着実に前に進んでいる印象です。みんながフラットな立場で空き家をなんとかしようと奔走しています。

なるほど。ご紹介いただいた三つとも行政からの依頼ということで、京都は地域の課題感に対する視座が高い印象を受けます。

松倉:
京都って、おそらく世界的に見ても、文化都市の中で最初に問題が起きやすいベンチマークなんだと思います。京都にはインバウンドが年間7,000万人来るので、人もお金も大きく動く。行政としてうまく動いていかなければならないのに、問題も露呈しやすく、対処していかなければいけないことも多い。そういった背景から、特に文化事業まわりは行政が動くのが早いんだと思います。

プロジェクトの進め方が毎回変わる「野生のフレームワーク」

Hear And There

最近も面白いプロジェクトをやられていましたね。

松倉:
サウンド&ヴィジュアルブック「Hear And There」ですね。Nueでは、自由度の高い仕事の場合はいつも「今までやったことのない方法」を実践するんです。このプロジェクトで実践したのは、僕らにとって欠かせない「リサーチ」作業に、プロジェクトメンバーに写真家と音楽家を同行させたことです。

最初にルールだけを決めて、観光ガイドなど滋賀に関する一般的な情報には触れずに、滋賀ネイティブな人たちから面白い場所の話を聞いて、そこに行く。最初なんて、死ぬほど高い山に登らされたんですが(笑)、写真家はそこで、自分の琴線に響いた風景を撮る。それに引っ張られて音楽家がフィールドレコーディングをする。その音に反応した瞬間に写真家が写真を撮る……といった感じで、滋賀中を一年間回ってみたんです。

「なにかを生み出すための対話ではなく、対話から、新しいなにかを生みだそう。」
という一文が印象的

松倉:
京都や滋賀の、愚連隊みたいに孤軍奮闘しているメンバーを集めたんですが、あえて「トップを作らない」こともルールにしました。オーナーもメンバーの1人として、撮影の時にはカメラ持ちをしていたりと、クリエイティブヤンキーみたいな制作スタイルでしたね(笑)。そこで僕らの感性で捉えた滋賀が、いわゆる滋賀のイメージと全く違うものだったので、これは本にしようと。それがサウンド&ヴィジュアルブック「Hear and There」になりました。
(「Hear and There」についてついてさらに知りたい方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。)

それにしても、毎回進め方が独特ですね。フラットな関係性もそうですし、ビジネス的なフレームワークも出てこない。出てくるのは、野良、愚連隊、クリエイティブヤンキー(笑)。野生のフレームワークというか。

松倉:
そうですね、それがNueの作り方なんです。いわゆる商業的なフォームとは別の作り方ができるのではないか、というところからNueは生まれているんですね。僕はこれから、もう少し「プリミティブな方法論での商流」というものが価値を持つ時代がくるんじゃないかと信じているんです。

京都のクリエイターは、自分の生きる商圏を自分で作る

京都のクリエイターには独特な人が多い印象があります。

松倉:
京都は、就職せずに野良で独立したクリエイターが面白いです。一割ぐらいでパンク&アナーキーな人が出てくる。僕の下の世代だと三重野龍くん、VOUの川良謙太くんとか、みんな仕事の取り方もわからないのに独立しちゃう(笑)。京都の芸大って、アーティストとクリエイターの線引きが曖昧で、アーティストとクリエイターの混血みたいな子が生まれてくるんです。しかも最近ではそれで食べられるようになっているばかりか、世界的にも活躍し始めてるのが、今の京都のクリエイティブですね。

三重野龍さんが最近出版した作品集『龘|TOU』
2025年で10周年を迎えたVOU / 棒

松倉:
三重野くん以降の世代だと、チャッキーくんというデザイナー兼バンドマンも面白いし、プロダクトベースでのものづくりをしている「スタジオものや」もいい。クリエイティブの経済原理的な雰囲気が合わなかった子たちが、自分の生きる商圏を自分で作り始めてるところに、京都特有の気配がある。

バンドマン兼デザイナー“チャッキーくん”こと高山燦基さんの制作したフライヤー
スタジオものや

西:
京都のクリエイターだと、私は漫画家のスケラッコさんが好きですね。京都の街や飲食店を素材にした漫画を描いていて、私の京都生活のバイブルです。他にも、同じく漫画家の胃下舌ミイさん、作家だと土門蘭さんが好きですね。京都には文筆家や独立系出版社も多く、大垣書店をはじめ新刊書店が元気で、人が本を必要としている証だなと感じます。

左:スケラッコ『ちゃんねこ』右:土門蘭『死ぬまで生きる日記』
中:胃下舌ミイ『みっちゃんの皮膚』

西:
作家以外でも面白い人はいまして、例えば日常に寄り添った心地よい場所「Com-ion」を京都・岡崎に立ち上げた宮下拓己さん。お金をつくって、企画をして、場を立ち上げ、人と関係を育み続けるといった、事業創造もクリエイションの塊だと思います。京都はデザインや映像といった「クリエイティブ」の領域以外でも、本屋やスペースなどあらゆる領域で世界観をつくっている人が多いです。

Com-ion

松倉:
今、世界的に街ごとでのクリエイターやアーティストなどの「表現者が何割いるか」という指標が流行るんじゃないかと思っているんですが、京都ってその割合が結構高いんじゃないかと思うんです。京都の環境って、制作に向いてる。

西:
やっぱり、自然とのバランスがポイント高いと思うんです。鴨川を目指して歩いてる時間だったり、川でぼーっとしてる時間だったりがちゃんと着想の時間になる。

北山:
京都のクリエイターって本当に熱狂的ですよ。野良感もあるし(笑)。私たちの世代は割とコスパ・タイパ世代みたいな感じで括られてますけど、幻かってぐらいコスパ感がない。

クリエイターの集まるスイミー「共創自治区CONCON」

「共創自治区 SHIKIAMI CONCON」は、2019年に、クリエイターの集まる『スイミー』みたいな場所を作りたい、というところからはじまったそうですね。

松倉:
長屋3棟と駐車場の土地のオーナーから「ここで何か新しいことをしてほしい」という相談が来たんです。そこが自宅から近かったので、「じゃあ、スタジオにしよう」と。以前から、仲の良い不動産会社と飲みながら「コンテナを使ってみたいね」と話していたので、いよいよコンテナだなと。京都は景観条例が日本で1番厳しい街なんですが、どうせなら、その条例を全部突破する「アナーキーな建築」を作ろうぜと思い立ち、大阪港に行ってコンテナを19機買い付けに行きました。

ソフトチームとハードチームで連携してやっていったのですが、建築現場では、クレーンでテトリスみたいにコンテナを積んでいくんですよ。自分たちで提案しておきながら笑ってしまいました。

ソフトに関しては企画書も書いたんですが、それよりも絵本の『スイミー』を見せた方が早いと思い立ち、オーナーに見せて「これをやりましょう」とプレゼンしました。『スイミー』には「無数の小さな魚が、一つの大きな魚を模す」ページがあって、これからのチームって、資本関係を持ったりするんじゃなくて、小魚みたいな小さなチームが信頼をもって、相互に連携しながら大きなチームをつくる、それが未来のチームのあり方なんじゃないかと思うんです。そういう「クリエイターの巣」のような場所をつくれないか、と。
(松倉さんの『スイミー』に関する記事はこちらで読めます。)

松倉:
また、京都に来て一番の衝撃だったのが「地蔵盆」。これはお地蔵さんを中心に子どもたちの健やかな成長を祈願して、そのために街全体が集まるイベントなんですね。その時期は道を封鎖して、テーブルを出して、各々が家に余っているお酒やご飯を出して、みんなでご飯を食べてお酒を飲む。そういうお祭りがこの夏の時期に、ぶわっと京都中で起きるんですが、その多幸感たるや、と。この地蔵盆の発展系のようなことをやってみたいなと思ったんですよ。「お祭りの多幸感」と「クリエイターの巣」のマッシュアップですね。

京都では京都大学と京都精華大学が学生自治を謳っていたり、街に「自治」の空気があるので、この場所も「クリエイターたちの自治区」にしようと。だからタグラインも「共創自治区」。ここでは制作プロセスも全部変えて「あえて自分たち(=ぬえ)でつくらない」ことをやっています。僕がやったのは「スイミーみたいな場所をつくりたい」だけ。名前もロゴもデザインも、入居者たちだけで作っています。

CONCONでは日々どんなことが行われていますか。

北山:
実行委員が進行役を担い、各種イベントの企画と、毎月最終週の金曜日に「自治会」を開催しています。自治会は、入居者が肩書きや立場を超え、お酒を飲み交わし語らう集いです。外部ゲストさんからは「まるで高度経済成長期のような熱気ですね」「唯一無二!」といった感想をいただくことも。 日々の空気感がいかに特別で、外から見ると “異質”なものなのかを実感しています。

松倉:
入居者はそれぞれ職業がバラバラですが、会社の枠組みでフォローできない人間的 な課題や悩みをフォローしあったりしてます。例えば、僕が経営のことで悩んでいたら、 別分野の経営者がふらっと現れて、自然と相談できたりするんですよ。そこが、CONCON の強みかもしれません。エントランス近くにあ る「TAREL」ではお酒も飲めるんですが、オフィスで「いい仕事だったね」と言うのと、TARELのような場で「この前の提案、めっちゃよかったよ」と言うのとでは、響き方が違うんですよ。

CONCONでは「夏祭り」と称したイベントも定期開催している

北山:
松倉さんがTARELで飲んでると、隣に行って相談しようと思ったり。仕事中に「時間作ってください」だと、ちょっとニュアンスが違う。最近では外部から「自治会」に遊びに来てくれる人も増えてきていますし、ただ一緒にお酒を飲んで、何気なく会話するだけでも、その人の悩みが誰かの気づきになったり、思わぬアイデアが生まれたりすることもある。「場の力」って、すごいなと思います。

“飲みの場” がNueのクリエイティブの根っこにある

お話を聞いていると「飲みの場」が重要なキーワードですよね。Nueさんはプロジェクトでも「打ち合わせ+飲み会」がセットで、プロジェクトメンバーで食卓と酒を囲むそうですが。

西:
Nueでは、お客さんとの関係において「仕事よりも、先に人間として出会う」ことがよくあるんです。まず飲みの場で「人」として知り合って、後で仕事になったり。ビジネスから入るお客さんも、一度Nueに来てもらって飲んだり。まず「人間として知り合う場」を設けた方が結果的に効率が良いなと。

面白いですね。「仕事」からではなく「人間」から関係がスタートすると。

松倉:
京都ってやっぱり変な人が多くて。京大の研究者とか、アーティストとか、何かを探求している人が多いんです。飲み屋で「今こういう研究に没頭していて、ここがまだわからない」みたいな話がよくあって、同じテーブルにいる僕、アーティスト、研究者、お坊さんとか、仕事も趣味嗜好もバラバラな人たちが、それぞれの観点で、誰かの問いに対する答えをぶつけ合うんですよ。

そのディスカッションから色々なことがインプットされるし、自分の仕事から何から全部が繋がっていく感じがある。それが京都特有の良さかもしれない。これはまだエビデンスがないんですが、同じ最高峰のアカデミアである東大と京大だと、京大の方がノーベル賞を取ってる人が断然多いらしいんです(笑)。それが本当だとしたら、それって環境の違いなんじゃないかな、と。あらゆる人種が同じテーブルで酒を飲んで話をすることで、一気にクリエイティブジャンプしちゃうような機会が多いのかなと思うんです。

「崇仁新町」もそうですよね。コミュニケーションやインプットやアイデア、人間として会うことなど、クリエイティブの根っこに「飲みの場」があるというか。文化として「飲みの文化」みたいなものはあるのですか。

松倉:
京都って、狭いエリアに凝縮されている街なので、みんな歩いて帰れるんですよ。終電を気にしないというのが大きいかも。恐ろしいことに、夜の2時に電話がかかってきたりするんです。だから、夜遅くまでディープな話ができるというのはありますね。

Nueとして、個人としてやっていきたいこと

最後に、今後Nueとして、個人としてやっていきたいことを聞かせてください。

北山:
「人の生活の中にある”ネガティブ”を、生きやすくなるように変換したい」と学生の頃から思っていたんですが、前職では貧困問題の解決など対象が大きくて、なかなか自分ごとに変換できなくて。でも、もっと身近な人たちだったら自分ごとにできるかな、と。

今私が目指しているのは、千と千尋の神隠しに出てくる「釜爺」(笑)。たくさんの引き出しの中から、相手に合っている薬を調合して渡す、みたいな。今はそういった引き出しを増やす時期だと思っています。

西:
私には子どもがいるんですが、子どもとの世界って半径500メートルぐらいの小さい世界で、そこでは知り合いの数だったり、困った時に頼れる人がいるかが自分たちの幸福に関わるんだな、と思ったんです。夜ご飯を2人で食べてても盛り上がらないことがあるので、まわりの人と一緒にご飯を作って食べれるような「半開きの街の台所」みたいな場所をつくれたらいいな、と思ってます。

こんこん内の部活である「手土産愛好会」には西さんも参加してZINEを作ったりおやつを食べたりしている

松倉:
僕にとってNueは実験の場なんです。やりたいことは、Nueが法人という枠を超えて「ぬえ的な現象」を目指すこと。鵺(ぬえ)は神話に出てくるキメラ的な生き物のことで、「説明がつかないもの」みたいな意味で「ぬえ的」と呼んでいるんですが、仕事もバラバラだし、つくるものも毎回違うのが、ぬえのブランドなんです。なので会社のロゴもモザイクがかかっているんです。

僕らには内外関係なくメンバーがたくさんいるので、そういった「ぬえ的」なひとつの生態系を作りたい。CONCONはその実験のひとつで、これからはそこをもっと広げて、法人という古い枠組みじゃないビオトープ(生物生息空間)を生み出していきたいですね。

Logo Design:OUWN inc. 石黒篤史 / Atsushi Ishiguro
Artwork:深地昌宏 / Fukaji Masahiro

今後、京都のクリエイターやものづくりはどうなっていくと思いますか。

松倉:
今、京都はインバウンドのこともあってネガティブに捉えられていますが、もともと京都らしさって、寺社仏閣や銭湯を除けば、僕が大学の頃からほとんどなかったんです。だからこそ「ここから京都はどう面白くなっていくのか?」に興味がある。「インバウンドでもっとカオスになっていく街」なんて、ここにしかないですよね。伝統と歴史の街が、ディストピアなカオスになっていく。今はその混沌とした京都の変化を楽しんでいきたい。

西:
クリエイターもそうなんですが、京都って飲食店も面白いんです。料理も空間も創造的なものを作っている人が多くて、気づいたら広い意味での「つくる人」が圧倒的に目に入るようになりました。私自身、仕事と生活を分断せずにミックスしていきたいなと思っていましたし、鴨川や自然といった、人間以外との関係を結んでいくこともそう。京都は関係をつくり、ものごとを立ち上げる包容力がある街だと思います。

おわりです!

ぬえさんのインタビュー、これにて終了です。いかがでしたでしょうか。

ぬえさんが独特だと思ったのは、「通常のフレームワークを使わないところ」と「プロジェクトの進め方が毎回違うところ」。これは想像なのですが、フレームワークや進行プロセスというものは形式であって、気づけば枠組みだけで中身のないものになっていることもある。AIに取って変わられてしまうことも多いはず。それらに対して、ぬえさんは”生身(身体)の感覚”、もっと”人間的な感性”をもって目の前の課題に取り組んでいこうとしているのだな、と。その姿勢は「Hear And There」のプロジェクトからも感じられました。

もうひとつが「飲み」。これもフレームワークの話に通ずるところですが、プロポーザルがあって、課題があって、課題解決のためのフレームワークがあって、という形式ではなく、もっと身近な、なんでもない会話からこそ、本当の想い、悩み、課題が生まれてくる。そして、各々がお酒を交わしながらあーでもないこーでもないと話すことの大切さ。その背景からはそれぞれの”人間”も浮き彫りになる。西さんもおっしゃってましたが、仕事の前に”人間”としてやれることをやっていこうよ、というニュアンスが伺えたのが、今回のインタビューでも面白い!!と思ったところです。京都にいったらぜひ、CONCONには行ってみたいです!

※ ※ ※

よかったらみなさまの感想を、SNSなどで伝えていただけるとうれしいです(こういう話聞きたいとか、こういう人に話聞いてほしいとか、大歓迎です!)。

『GOTO-CHI CREATIVE!』、ここまで札幌、長崎、新潟、京都と旅をしてきました。次は……そろそろ、四国あたりはどうですか?夏の四国……。いい響きですよね。そこにはどんなクリエイティブが、どんな働き方があるんでしょうか。楽しみです。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。
本日もすこやかな一日をお過ごしください。
iDID Magazine編集部でした!

※今回のインタビューは6月18日発売の『Web Designing 8月号』との連動企画です。Web Designingではサマリー版、本記事では完全版をお読みいただけます。

Credits

Text, Edit:iDID編集部

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