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ウェブだけではなく「領域を超えて認知される人」になりたい | 大橋絵里奈 (クックドゥードゥードゥー)[GOTO-CHI CREATIVE!名古屋編]

iDIDメディア編集部
iDIDメディア編集部
2026.03.13

ご当地クリエイティブ第七弾は、名古屋!2023年の独立から2年連続でStudio Design Awardsの受賞など、華々しい活動を続けるクリエイターの大橋さんに、自主制作と創作の秘密から、昨年名古屋で開催された「なごりおしい夜」イベント開催のことまで、ねほりはほり聞いてきました。

お話を伺った方
  • 大橋 絵里奈

    クックドゥードゥードゥー

Erina Ohashi | Web Designer
名古屋拠点のフリーランスウェブデザイナー。モノづくりに没頭したのは小学生から。インテリア雑貨のデザイン会社とウェブ制作会社で経験を積み2023年に独立。Studio Design Award二年連続受賞。

「うんこの絵」でクラスが盛り上がった「ものづくり」の原体験

大橋さんがデザイナーを目指したきっかけって何だったんですか?

大橋:小さい頃から「つくること」が好きで、小中学校のコンクールでは毎回賞をもらうぐらいでした。でも、本当に志したきっかけとなると……私、小さい頃は物静かでクラスでも全然目立たない子だったんですが、たまたま描いた「うんこ」のイラストが教室でウケたことがあったんです(笑)。クラスが「大橋さんがうんこ描いたぞー!」と盛り上がって。それが純粋にうれしかったんです。

中学3年の頃「科学創作コンクール」で最優秀賞を獲ったポスター
中学時代の大橋さん

その後も給食のパンで操り人形を作ったらまた盛り上がったり。そうやって「自分の作ったものでまわりを驚かせること」に味をしめたんですよね。普段は目立たなくても、ものをつくればコミュニケーションが取れるんだ、と。その経験が原体験かもしれません。

「ものをつくる」だけじゃなく「人に反応してもらう」ことが原体験だったと。高校時代はパティシエを検討したこともあったそうですが。

大橋:パティシエも、ものづくりという点で魅力的だと思ったんです。パティシエを目指して、高校時代はケーキ屋さんでアルバイトもしていました。でも、労働環境が過酷なところが多いといったお話も聞いて、単純だった当時の私は「違うかも」と。それであれこれ考えた結果、私は雑貨も大好きだったので、雑貨のデザイナーになろう、と思ったんです。

それでインテリア雑貨のデザイン会社に就職したわけですね。でも、大学は名古屋造形大学のジュエリーコースだったとか。

大橋:ジュエリーなので雑貨は関係ないんですが、ジュエリーデザインコースって素材がいろいろ使えるんです。ジュエリーと言っても、木を掘ったり、陶器で作ってみたり、あらゆる素材を試せるところが雑貨に似てると思いまして。

大学時代に制作したブローチとチョーカー

面白いですね。通常なら雑貨の専門学校に行くところを、大橋さんはジュエリーデザインコースで学んだほうがいいと思ったわけですね。

大橋:そうです。ジュエリーをつくることではなく、ジュエリーコースでやっていることに惹かれて。それで大学を卒業してから名古屋のインテリア雑貨のデザイン会社に就職したんです。そこは繊維製品を主に取り扱っているところで、繊維中心の、ブランケットやポーチ、タオルなどの製品をデザインする会社だったんですが、正直に話すと、そこでやることにあまり熱が入らなかったんです。

繊維製品を作る上では繊維のことをたくさん知らないといけないし、デザインする上で気をつけないといけない制約がたくさんあって、そういう中では「自分の気持ちが動かない」ということに気づいてしまい、一年で退職してしまいました。

卒業制作で制作したジュエリーブランド、写真のお店も自作した

そうだったんですね。そこからどのような流れでウェブに興味を持ったのですか。

大橋:大学時代に卒業制作でアクセサリーブランドをつくって、そのプロダクトをネットで販売していたんですが、そのとき「商品をもっと魅力的に見せるサイトにしたいな」と思ったのが、ウェブに興味を持ったきっかけです。当時はコロナの時期で「在宅で仕事ができるのもいいな」とか、自然とウェブが気になってきていて。そういう経緯から、名古屋のウェブ制作会社に転職することになったんです。

この会社は入社した当初、社長と私の二名体制だったんです。社長がディレクションとコーディング、私がデザインという分担でやっていました。私にとってはここでの経験がとても楽しく、少人数で「自分が会社を好きに作っていく」感じも楽しくて、とてもやりがいがあったんです。小さな制作会社が大きくなっていく前の、自由な雰囲気の中でいろんなことを吸収できたし、ここで「自由に動けること」の魅力を感じました。

当時大橋さんが勤めていた「株式会社ボンボンレザンヌ」。
当時「自分で会社を好きに作っていく感じ」が楽しく、ここでの経験が今の大橋さんを作っているように感じる。

ここで三年間勤めて、フリーランスとして独立するんですね。

大橋:社長からフリーランス時代の仕事の話をよく聞いていて、それを聞いているうちに「自分の実力をひとりで試してみたいな」という想いが芽生えてきて。それで独立することにしました。

2023年の2月に退職して、2023年の4月にウェブデザイナーとしての活動を始めました。フリーランスになるにあたっての戦略はありましたか。

大橋:このときは何も考えてなくて、まずは「何も考えずにがむしゃらに動こう」と。独立してちょっとしてから「自分はクライアントに寄せた、柔軟な方向で行くのか、それとも自分のテイストでいくのか」を迷いはじめることになるんですが、どちらかというと、この「自分の方向性を定めること」が自分にとっては大きかったですね。

そんな中、5月にNEWTOWNの犬飼さんの事務所に遊びに行く機会があって、そのとき自分が思い悩んでいることを相談してみたんです。そうしたら「勘はとてもいいので、大橋さんでしかできないことをやろうよ!」と背中を押してくれて。そこで「振り切ってやってみよう」と決意しました。このときに制作に着手していたのが「小川ぶどう園」のサイトで、このタイミングで自分のスタイルで挑戦することにしたんです。

NEWTOWNのサイト。犬飼さんの助言が自身の方向性を決めるきっかけになった。

クックドゥードゥードゥー大橋さんのクリエイティブ

「小川ぶどう園」- 自分が好きになる「納得のライン」を超える

さきほど言及のあった「小川ぶどう園」ですが、独立後、比較的早い段階で高校時代の先輩からお声がけいただいたそうですね。

大橋:ある日、急に小川先輩から「ぶどうの品種で好きな品種ってある?」という連絡があったんです。理由を尋ねてみたら「ぶどう園を開業するのでアンケートを取っている」と。そこで自分もデザイナーとして独立したんです、という話をしたらウェブの話になり、「それなら私が作りますよ」と。

最初にこのサイトを見たとき「山だ」と。同時に「ぶどう園」という文字が目に入って「ぶどうなのか!」という驚きがあって。マクロから急にミクロにフォーカスされるところが面白いと思ったんです。

大橋:まさに「山の画像」を見てこのビジュアルを思いついたんです。最初ぶどう園の見せ方を考えたときに「ぶどう」ってかわいくないな、と思って(笑)。みかん、レモン、りんごはかわいいけど「ぶどう」は名前も、集合体な見た目もかわいくないなぁと。

そのぶどうのノイズ(かわいくないところ)を最大限かわいく転換させるにはどうするべきかを考えていたときに、たまたま「山の画像」を見つけて。そのとき「ぶどうを大きく見せたらかわいいんじゃない?」とひらめいたんです。

山に見えて、実はぶどう。マクロ視点から急にミクロにフォーカスがあたる。

また、小川ぶどう園さんはぶどうを一粒ずつ心を込めて作っているので「ひとつひとつ真心込めて」といったメッセージ性も入れ込もうと思い、(ひとつひとつにフォーカスをあてた)このビジュアルになりました。

デザインの初期段階で、大橋さんはまず自分にとってぶどうが「好きか否か」から入って、否であれば「どうすれば好きになるか」という「自分にとっての納得度のライン」を設定するんですね。対象をご自身の感覚、フィルターを通して考えるというか。

大橋:はい、対象を純粋な気持ちで見るように心がけています。また「差別化」も意識していて、農園のサイトだと大体FVが農園や収穫した果物の写真だったりするんです。そこで同じビジュアルだと埋もれてしまうので、イラストにしようと。じゃあ、どんなイラストにする?というところをひとつずつ考えていきました。

自分の感性を大事にしつつ、客観的な目線も大事ということですね。公開後の成果はいかがでしたか。

大橋:反響が大きくてびっくりしました。ヤフーニュースでも取り上げていただいて、直売所をオープンした日も、お客さんが並びすぎて警察が動いたとか。直売所の備品も私が作っていたので嬉しかったですね。でもサイトやツールだけではなく、何よりも小川さんご自身の動きがすばらしくて。ウェブサイトはその後ろで小川さんを支援した、という印象を持っています。

ウェブサイトはもちろん、ロゴ、名刺、直売所の看板にぶどう箱、値札まで制作した。

サイトリリース当時のXでの反応も大きかったですね。

大橋:これも犬飼さんが「丁寧で美しいサイトだ」とコメントしてくれたことが大きくて、そこから犬飼さんと繋がりのある人たちが反応してくれたという流れがありました。もちろん、賞もいただいたサイトなので、いいものが作れたという気持ちもあります。

サイトを振り切って作った結果、最終的にStudio Design AwardでGoodpatch賞を受賞しました。大橋さんご自身の実感としてはいかがでしたか。

大橋:そうですね。ここで自分にとっての「ボーダーライン」が決まったと思います。感性で振り切ったものに対して反応をもらえたことも自信にもなりました。次はこれを上回る満足度で作ろうという基準が明確になりましたね。

Studio Design Award 2023ではGoodpatch賞を受賞した

「名古屋たちばな高等学校マーチングバンド部」 – 自ら学校にアプローチして制作した、自主制作かつクライアントワーク

次は「名古屋たちばな高等学校マーチングバンド部」。半分自主制作、半分クライアントワークとして作られたサイトです。大橋さんが感銘を受けたインプットソースがあって、これを自分でも表現すべく、自ら学校へアプローチしていったわけですね。

大橋:はい。これも本当に不思議な力が働きました。映画の『ガリレオ』シリーズにマーチングバンドのシーンがあるんですが、そのシーンを見た瞬間、「部員が横一列に整然と並んで、演奏しながら行進する」ビジュアルイメージがパッと湧いたんです。「これを作らない手はない」と。

このときは当初から「実験的に動いてみよう」と思っていたんです。今回のマーチングバンドの制作で素晴らしいものが作れたら、ボーダーラインを一段階上げることができる。その高いラインで作ったクリエイティブを通じて、仕事の依頼が来ることを目指しました。なので、初期投資的な考え方ですね。

このサイトの場合、情報設計も意識しつつ「自分が感じた感動をどのように伝えていくか」を意識されたと思うんですが。例えば、マーチングバンドだけど音がなかったり、臨場感のある写真ではなく、あえてイラストにしたことも特徴だと思うんです。

大橋:たちばな高校のマーチングバンド部は情熱的な演出も、ユニフォームもかっこよかったので、それをいかにサイトで最大限表現できるかを意識しました。音に関しては、音を入れてしまうと全部を出しすぎちゃうな、と。そして写真には現場の空気感をリアルに伝える力がありますが、今回は「私自身が感じた『かっこよさ』や『高揚感』」を再現したいという想いがあったので。イラストは多くのニュアンスを混ぜたり、膨らませたりすることができるので、それがより丁寧に再現できる手段かなと思いました。

私自身、デザインを考える上で大事にしているのが「色気」なんですね。全部ではなく、もっと見たいとか、何か気になる、とか。美しく心に残るようなサイトを作るために大事なのが「色気」だと思っているんです。今回のサイトも、想像の余地を残しつつ、本物を見てみたいと思ってもらえるような「色気」を意識して制作しました。

サイトのデザインで見て欲しいところはありますか。

大橋:イラストはもちろんなんですけれど、NEWSセクションに「十字」のあしらいがあると思うんですが、「バミリ(演奏者の立ち位置などの目印になるもの)」なんですね。こういう細かいところを少し意識していたりするので、そういうところも見てもらえたらうれしいです。

Newsセクションにある十字のあしらい。
「バミリ」だと知ったとたん、サイトが立体的に立ち上がる感覚になる。

こちらは、全体の反応や成果はどうでしたか。

大橋:このときはウェブ界隈だけでなく広い方面から反応をいただいた実感がありました。別畑のクリエイターさんや、マーチングバンドの関係者さん、部のOBや保護者の方にも届いたみたいで、直接DMで反応をいただいたりと、業界を超えられた感じがしてうれしかったです。

私自身、ボーダーラインがまた一段階上がって、「相手のことが好きであれば、これぐらいのものができるんだ」ということが分かりました。とことん好き、という気持ちになってみて初めてわかることもある、と思っていたのですが、このときそれが実感できた。そしてもっと「好きになれることをどんどんしよう!」という気持ちが強くなりました。

「poporpop」- 架空の物語をサイトの全体構成に落とし込む

こちらが、2025年に担当された「poporpop(ポポルポップ)」。

大橋:これはまず、ポポルポップ代表の方が、以前私がサイト制作を担当した「僕と私と株式会社」のメンバーで、制作時の担当をしてくれた方だったんです。私の発想力や提案力、ちょっとした仕掛けなどのアイディアが好きで「よかったらポポルポップのサイトも作ってほしい」とおっしゃっていただきました。

2024年に制作した「僕と私と株式会社」のコーポレートサイト

「想像を超えるポップ」というビジョンは既に存在してたんですか。

大橋:元々先方が掲げてるビジョン的なものはありました。ただ、それがインナー向けとしては成立しても、外に向けては伝わりづらいかもと思い、こちらから提案したのが「想像を超えるポップ」です。

私のサイトデザインのプロセスとして「コピーが決まっていないと作れない」ところがありまして、コピーを軸に筋が通るデザインにしていくために、最初にコピーを確定できればと思って提案しました。

サイト全体において、分かりやすく言えば4コマ的な流れがありますね。1)「FV」、2)「企業ビジョン」、3)「事業説明」までは「女の子とうさぎの夢の世界」。4)最終コマで「うさぎの人形と女の子の空想」という現実への落とし込みがあり、ここで「そうぞうを、ふわっととびこえる」のコピーが鮮明に活きてきます。

大橋:まず「そうぞうを、ふわっととびこえる」という言葉がしっかり活きるストーリーにしたいなと。そしてこのコピーが、メッセージでありながら「サイトでも追体験できる」ものにしたくて。ストーリーは作っていく中で「こうやって締めたらかわいいし、血が通るんじゃないか」と思い、こういう流れになりました。

全体を通して4コマ漫画のような「物語の流れ」がデザインとして落とし込まれている

サイトのデザインにおいて、大橋さんの得意なところを活かすためにはやっぱり「物語性への落とし込み」が肝なのかなと。例えば漫画家さんならプロットから始めるように、大橋さんもサイト制作において、物語的に全体構成を落とし込んでいくというか。

大橋:このときはそうですね。ポポルポップはコンテンツ制作会社なんですが、キャラクター制作やボードゲーム制作など、やってることが多岐に渡っていて、そのまとめ方に悩みました。最初ポポルポップで作ったキャラクターやライブ配信のマイクをモチーフに組み立てようと思ったんですが、伝えたいことが直球すぎて「色気」がない。

それなら「想像の世界」に振り切ったらどうかと。ロゴのバルーンドックがかわいかったのと、ポポルポップは女の子だけの会社で「みんなが元気にポップに動く会社」という印象があったので、そのあたりのイメージを統合してビジュアルに落とし込みました。

このサイトで意識したことはありますか。

大橋:やはり全体のストーリーと「そうぞうを、ふわっととびこえる」というコピーのメッセージと追体験性ですね。あと、代表の方が私のデザインの好きなところとして「ギミック」を挙げてくれていて。「僕と私と株式会社」でも細かいところを工夫していて、例えばこの404もそうなんですが。

「僕と私と株式会社」の404ページ。4をアリが運んでいる。

大橋:「アリがたくさん集まると、雨が降るよい前兆」という言い伝えがあるらしくて、恵みの雨が降って(僕と私と株式会社に)いいお花がたくさん咲くといいね、というイメージでこの表現にしてみました。ポポルポップのサイト制作で考えたのは「こと座」。こと座にまつわる言い伝えとポポルポップには近しいものがあると感じていたので、そういった表現を密かにを忍ばせています。

こちらは公開してまだ間もないかとは思うのですが、リリース時の投稿が19万インプレッションで、とにかく反応も大きかったですね。何か実感などはありましたか?

大橋:お問い合わせやご相談はちょこちょこあるそうで、その点ではよかったです。また、Xでも反応をたくさんいただけて、新しいお仕事にもつながるきっかけや、ありがたいお話がいくつか出てきています。次につながってよかったな、と。

自主制作の意義 – 制限にとらわれず自由に好きなものを作る

大橋さんにとっての「自主制作」の意義や可能性について聞かせてください。これまでの話では「自分のテイストの発見」「ボーダーラインの設定と実践」「クライアントワークに繋げる」といった点が挙げられました。

大橋:一番大きいのは、制限にとらわれることなく、自由に好きなものを作れること。自分の強みがしっかり出せるし、それはクライアントワークだとなかなかできないことですよね。でも、自主制作を本気でつくれば、ものづくりへの意識とボーダーラインも上がる。どこまで頑張れば、どれだけのものが作れるのかが明確になる。それが自分の色になり、そこを求めて依頼をいただけるならとてもありがたいと思うんです。

「名古屋たちばな高等学校マーチングバンド部」のサイトは、Studio主催の特別イベント「Inside My Studio」で
大橋さん自らサイト制作の裏側を公開した。

大橋:また、私の場合は「自分にしかできない表現」をしっかり磨いていきたいという目的意識があるので、そういう目的があるなら、自主制作は意義があると思います。実は、今また自主制作でやりたいことがあって、あるプロジェクトを進めているんですが、それはウェブの領域ではないんです。

というのも、ここ最近、私自身がウェブという世界に凝り固まっている気がしていて、そこからなかなか抜け出せないもどかしさも感じているんです。そこで、新しい領域で自主制作プロジェクトを進めていくことで、新しい自分の側面を対外的にも見せていけるのでは、と思っていて。そういう新しい自分を見せたい場合に、自主制作であればそのとき興味を持ったことにチャレンジして、新しい道を気軽に切り開ける。そこがいいところだと思いますね。

なるほど。ちょっと話はずれるのですが、大橋さんの中には「物語的世界観」がたくさん存在していて、物語のストーリー的表現、伝承的エッセンスなどを「デザイン」に落とし込んでいくことが大橋さんのデザインの軸にあるように思うのですが。

大橋:そうですね。「かわいい」や「かっこいい」など「感情が動いたもの」のほうが、長く記憶に残る感じがするんです。私は、美しく心に残るサイトを作りたい。そのために心が動く構造を考えていった結果、自然と今の表現になっていったのかな、と。

そしてその表現を磨くためには、常に繊細に、感性を研ぎ澄ませた状態でいること。相手の言葉や見たものだけでなく、場の空気や深くにあるニュアンスまで感じ取ることを大事にしたいと思っています。

そういう意味では、私の場合「架空のサイト」を作ることは向いてないんです。お客さんの雰囲気、好きなもの、スタッフさん同志の空気感などを見て、それをデザインに落とし込んでいるので、その「あて」がないとデザインができない。だから、私の場合は自主制作をするにしても、実際のクライアントがいないと作れないんです。

交流会イベント「なごりおしい夜」を開催して

名古屋という場所において、どういうクリエイターや制作会社が多いか、また、土地特有の環境といったものはありますか。

大橋:フリーランスのクリエイターはそれなりにいると思いますが、制作会社はグラフィック、ウェブ含めて多いです。名古屋に限らず知られているのが、スタジオディテイルズさん、un-T factory! NAGOYAさん、アクアリングさんですね。グラフィック系だとTAKI iCが全国でもグラフィックで強い会社で、広告系だと電通の名古屋支社もありますね。

そういう意味では全国に誇る制作会社やクリエイターは多いのですが、全体的に発信が控えめで、どちらかというと黙々とクリエイティブに励む「職人的な空気感」があると思います。

上から、スタジオディテイルズ、un-T factory! NAGOYA、アクアリングのサイト

名古屋という観点からいくと、大橋さんは名古屋のクリエイター交流会『なごりおしい夜』を開催されていますね。

交流会「なごりおしい夜」メインビジュアル。イラストは大橋さんが自ら制作した。

大橋:私自身、東京のクリエイター交流会には何度か参加しているんですが、そのたびに第一線で活躍する方々や、さまざまな職種の人たちから刺激を受けたり、新しいつながりがたくさんできました。で、その体験を名古屋にも持ってきたいな、と。面白い人も多いんです。それで「名古屋の人たちを集めてイベントやってみたい!」と思って主催したのが「なごりおしい夜」です。

名古屋に漂う独自の雰囲気を形にしてみたいという思いや、参加した人が少しエモーショナルな余韻に浸れるような夜にしたい、というイメージがあったのでそれに沿った会場を選んだり、当日のBGMとして昭和曲のプレイリストも用意したりしました(結局、不具合で流せなかったんですが……)。いざ開催してみたら、東京とは全く違う雰囲気で。東京はすごくキラキラしていて、交流も盛んだったんですが、名古屋は全然逆で。とてもディープ(笑)。密に関わりたい人たちが多くて、その違いが面白かったです。

会場になった金城市場は、昭和30年開業の木造平屋建て市場。イベントのディープな雰囲気にマッチ。

来場者にイベントを楽しんでもらうためのちょっとした工夫もされていたのも印象的でした。

大橋:運営の人たちが楽しみながら関わってくれたこともイベントが面白くなった理由として大きいですね。あと、このイベントでは、東京や大阪とはまた全然違う「名古屋らしさ」を打ち出したかったんです。東京ほどキラキラしてなくて地味なんですが、だからこその面白さが名古屋にはあって。「名古屋ってなんか個性的だな」というところを意識して企画やデザインをしてました。

会場装飾グラフィックは名古屋のフリーランスデザイナー、きたがわさんが担当した
スタジオディテイルズ、アクアリングなど名古屋発の制作会社によるトークセッションも企画

やってみて感触はどうでしたか。

大橋:みんなの反応がうれしかったです。名古屋って職人気質で巨匠の方も多く、昔はみんなで集まって交流会をよく開いていたそうなんですが、コロナを機にまったくやらなくなってしまったそうなんです。それが今回の交流会で、久しぶりにみんなと再会できたとか、いろんな人に会えてうれしかったとか、ぜひ次回も!と言ってもらえたことがうれしかったですね。

また、ウェブ系の人が集まると思ってトークセッションのゲストもウェブ系の方を中心に集めたんですが、蓋を開けてみれば来場者は意外とグラフィックとウェブで半分ぐらいでした。なので今後はもう少しグラフィック系も考慮したいなと。実はもう次の企画も始まっています(笑)。 

第1回目の来場者は全体で200人ぐらい。来場者には県外の人も。

イベントレポートはこちら👇
あの、なごりおしい夜をもう一度。|きたがわ

ウェブだけではなく「領域を超えて認知される存在」になりたい

今日お話をお聞きするまでは、大橋さんは今後、ウェブデザイナーとしてもっと仕事をしていくイメージがあったんです。でも、お話を聞いてみると全然違いますよね。

大橋:最初に「図工やものづくりが好きだった」と言いましたが、今のお仕事も、その図工をちょっと真剣にやっているようなイメージなんです。だから私の感覚だと、面白いことをしながら、お金をいただいて、いろんな方と関われる。そこが楽しい。あまりクライアントワークと思いながらやっていないところが出ているのかもしれません。

領域関係なく「自分の感性をもって面白いものを作りたい」気持ちと、それを「たくさんの人に見てもらいたい」気持ち、両方が大橋さんの根源にありますね。大橋さんの中で「ウェブデザイン」へのこだわりはありますか?

大橋:ウェブが今一番見てもらえてますし、反応もいただけるのでウェブの世界にいるわけですが、自分にとっての要件さえ満たしていれば、他のことでもいいのかもしれません。さきほどお話した新しいプロジェクトにしてもそうですが「新しい業界を切り開いていきたい」という気持ちがあります。

では、大橋さんが今後やっていきたいことについて、改めて聞かせてください。

大橋:今年は実験の年にしたいと思っています。これまで触れてこなかった分野や媒体に挑戦して、自分のできること、可能性を広げていきたい。さきほどお話した、ウェブ以外の取り組みについてもそうですが、他にも実験してみたいことが色々あり、水面下で動いているところです。

やっぱり、私は今「ウェブというドーム」の中にいる感じがどうしてもしてしまうんです。ウェブだけではなく、グラフィック、立体、その他、もっと自分の枠を広げていきたい。私の最終的な目標は「領域を超えて認知される人」になることなんです。

私はグラフィックデザイナーの吉田ユニさんが好きなんですが、ユニさんはまさにそういう人ですよね。彼女にしかできないクリエイティブを作って、それが領域を超えていろんな人に認知されている。とても難しいことだとは思っていますが、私も業界を超えて認知されるポジションを目指していきたいと思っています。そのためには、もっと色々なことに挑戦して、もっと知見を広げていく。そんな年にしたいですね。

グラフィックデザイナー、吉田ユニさんのウェブサイト

ウェブやグラフィックなどの領域にはこだわっていなくて、大橋さんの心が動くことが大事だということですよね。そこに誠実にいたいというか。

大橋:やっぱり、私は目立ちたがり屋なところがあって……。やっぱり業界を超えて認知されるためには、テレビに出てしっかり取材を受けるとか、そういうイベントがあると強いのかなと思っていて、今は、どうやったらテレビに出れるのかな、ということをずっと考えています(笑)。

思ったのですが、大橋さんにとってはクライアントワークも、自主制作も、イベント企画も、すべて「クリエイティブ」として等価なんでしょうか。それは小学校から変わってなくて、「戦略を考えて、ものづくりで場を動かして、人からフィードバックをもらうこと」。「つくること」と「みてもらうこと」が不可分というか。そこが大橋さんの「ライフワーク」だから、お金は関係なく、自ら新しいものづくりを求めて能動的になれるのかな、と。

大橋:確かに、自分をどう知ってもらうかという点では、クライアントワークも、自主制作も、イベント企画も近いものなのかもしれません。美大時代は先生にも「作品を見てもらうことが好きだよね」と言われたことがあります。「考えたものを形にして、反応を受け取る」。その循環が好きで、自分にとってのやりがいにつながっているのかなと思います。

大橋:一方で、思い描いたものを試行錯誤しながら形にしていく工程自体も好きなので、そういったことも踏まえると、やっぱり「デザイン」が一番自然な手段になっているのかな、と思うんです。

そして今後は「チームでのお仕事」も積極的にやっていきたいと思っています!これまでは一人で完結することも多かったんですが、各分野のプロの方々とチームを組んで、クオリティの高いものを作りながら、自分自身の知見をもっともっと広げていきたいと思っています。

ここまで、ありがとうございました。ところで、最近大橋さんがXで「人を集めてドッジボールがしたい」とおっしゃってたのを拝見したんですが…。

大橋:ドッジボール!ポストしました!!理由としては「単純にドッジボールが好き」というのもあるんですが、もうひとつは「気になる方々にお会いしたいから」です。ご飯にお誘いしてお会いするのも好きなのですが、「よかったらドッジボールやりませんか?」のほうが面白く、とても軽やかにお誘いできていいなと。

「お会いしたい方々とフラットに遊ぶ」。それが叶えられるのがドッジボールなので、実現すべく、今体育館を探しているところです。いろんな分野の方にお会いしたいので、もし実現したら面白いイベントになると思いますし、他の方々にとっても素敵なきっかけになればいいなと思っています!

おわりです!

クックドゥードゥードゥー大橋さんのインタビュー、これにて終了です。いかがでしたでしょうか。今回印象に残ったのは、大橋さんの小学生時代の「ものをつくって、誰かに反応してもらうこと」という原体験が、今でもかたちを変えながら脈々と続いているということです。

それはクライアントワークに止まらず、自主制作、イベント企画、果てはドッジボールまで。大橋さんにとっての「ものづくり」は、デザインという領域に止まることなく、実験と反応、検証を繰り返す。まさに、本当の意味でのライフワークなんだな、と感じました。そしてウェブの世界だけに止まっていたくないという大橋さん。今後もっと広い世界で羽ばたいていくのをiDIDとしても引き続き追っていけたらと思っています。

※ ※ ※

さて、Web Designingとの共同企画『GOTO-CHI CREATIVE!』ですが、Web Designingの定期刊行終了に伴い『GOTO-CHI』企画も今回の7回目を持ちまして終了とさせていただくことになりました。第一回目の北海道から始まり、長崎、新潟、京都、高知、沖縄、そして今回の名古屋と、北から南へ、東から西へと巡った企画、みなさまにも楽しんで頂けたことを願っております。

ここまで取材をしてきて感じたのは、土地ごとに、事業や人材課題、土地にまつわる歴史や文脈を伴ったプロジェクトがあること。そしてそんな中でもいろいろなクリエイターが孤軍奮闘し、または横のつながりを作りながらがんばっていることです。

土地を見ることで、その背景にある課題が見えるし、そしてそこにはさまざまなクリエイターがいる

今回7つの土地を見てまわったわけですが、まだ7つ。全国47都道府県という観点では、まだあと41都道府県。またどこかでこの企画を続けていけたら……なんて思いつつ、一度この旅に区切りをつけ、一旦筆を置きたいと思います。

またどこかの土地でお会いできることを楽しみに。
iDIDメディア編集部でした!

Credits

Text, Edit:仲村直(すなおん)(iDIDメディア編集部)

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