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1. spicato

今月話題だったのは、spicatoさんのコーポレートサイトリニューアル。XのTLを見るたびに誰かがspicatoのサイトへの言及をしているという、まさにspicato祭りでした。iDIDも、140文字で伝えきれなかったことをここでもう少し補足できたらと思います。
まず、FVが極めてシンプル。画面下に動画サムネイル、左上にロゴマーク、右上にメニューアイコンと、言葉を前に打ち出していません。余計なもので飾ることなく、会社の雰囲気や質感を伝えたいという、spicatoさんの「覚悟のようなもの」を感じたのは私だけでしょうか。
また、さきほど言葉を前に打ち出していないと書きましたが、今回新たに”らしさ”を感じとれたのが言葉。「私たちの考え方」をはじめ、いわゆる決まり文句を使わない。使われる言葉のひとつひとつが、丹念に練り上げられた、クラフトワークな言葉だから、目の前にいる自分にしっかりと届いてくるんですね。
「私たちにできること」のプロセスにあわせた実績の見せ方や「よくある質問」の絵本みたいな作り方。どこかに隠れているスピッカート君に、スクリーンセーバーのメッセージなどのサプライズ。spicatoさんが作るサイトは、まるでウェブサイトそのものを「粘土みたいに丹念にこねて作り上げる」みたいで、そこに愛情を感じてしまうんですね。
モンブランさんのブランディングサイトも「愛」がキーワードでしたが、モンブランさんもspicatoさんも「愛」をテーマにしつつ、作るもののベクトルには違いがある。そこもまた面白いところだと感じながら、サイトを拝見しておりました。今回のサイト制作の裏側の記事も置いておきます!
人柄×品質で勝負する。外部デベロッパーと自社Webサイトを制作した理由
Technical Director, Front-end Developer / HASEGAWA Takumi (unshift Inc.)
@_unshift
Photographer / KATANODA Hiroumi (freelance)
Movie Director / NASUNO Joho (TEIKOKU creative)
Videographer / YANAGIMOTO Yota (muni.)
Director, Art Director / HOSOO Masayuki @masayukihosoo
Designer, Illustrator / INOUE Yuko @yukoinooue
Back-end Developer / KANAYAMA Yuki @spicato_kana
Copywriter / MAEKAWA Hiromi @ohiroyan
Photographer / SHIRATAKI Jin @nichi_iro
2. RAMEN CLUB

一見ラーメン屋のサイトかと思ってしまうような、FVの圧倒的存在感。ラーメン屋ならぬ、ラーメンスナック『RAMEN CLUB』のブランドサイトです。この「スナック菓子」と飲食店みたいな「堂々たる存在感」、このギャップが面白くて斬新なんです!スナック菓子に対してラーメン的意匠を採用することで、ラーメン的シズル感を見るものに与えていると思います。
スナック菓子に対する印象がガラッと変わるとともに、ギャップ感からなる「ユニークさ」が遺憾なく発揮されている。スナック菓子だけど「ラーメンをつくるように、丹念に時間をかけてこしらえている」とも言えるでしょうか。
それにしてもページ下部「CONTACT US」のお皿に守られたお菓子とビールの組み合わせ…ついついビールをお供に食べてみたくさせる。そこがまたうまい!ですよね。
Correct one Design: @misatodaiq
Develop: @silkhat_7, @misatodaiq
3. kyu

ありふれた記録を思い出にするためのカメラなど、「思い出を捉えることの価値を再考し、より美しく、持続的に残すことを目指す」ブランド、kyu。確かに気軽に写真を撮れるようになったがゆえ、たくさん撮ってもその写真を見返すことはあまりないですよね…。
FVでは、綺麗というよりは不鮮明な写真が並んでおり、その下にあるデジタル時計の表記は「april 24, 2024」。過去の表記なんです。他、サイト内で使用されている写真も、プロダクト写真すらも不明瞭。リール動画にいたっては全編にわたってぼかしが入っている…。それがゆえに、画像の表面的な美しさではなく、何か自分の記憶をゆっくり思い出すような感覚にさせてくれる。自ずとコンセプトを体感していることになりますね。
ブランド動画ではkyuについて何の説明もされないし、コンセプト動画はなんとBON JOVIのMVなんです。おそらく創業者の「思い出」なんでしょう。言葉で語らず、創業者の思い出をそのまま見せることが、そのままブランドのコンセプトになっているんですね。
Client:kyu @kyu_japan
Direction, Design:Yuka Kanno @yukalqqqozlz
Development:Tomoyuki Nakata @yukiloz7
4. NewsPicks Brand Design

メディア広告事業である「NewsPicks Brand Design」。経済メディア「NewsPicks」とどう差別化されているかがポイントかも、と思いながら拝見しました。FVのサムネイル動画で具体的実績を見せることで「コンテンツ制作の事業であること」を分かるようにしつつも、制作実績詳細への遷移はさせない。この”さじ加減”が絶妙です。
モチーフを「カード」にすることで、カラフルさ、楽しさを演出し、メインコピーの合間にあるサムネイル動画など、ところどころにユニークさも感じるのですが、全体では白をベースにビジネスとしての信頼性を担保している。ここでもさじ加減が巧みにコントロールされています。
NewsPicks Brand Designのことをよく理解できるのが「解決できる課題」と「事例」。充実したコンテンツの情報設計も印象に残りました。色々コンテンツを見たあとに、フッターで「信じられる、広告を。」というミッションステートメントを情緒的に伝えているところも同様ですね。
それにしても、あらゆる広告が蔓延している中でこの「信じられる、広告を。」というステートメントは明快で堂々とした強さを感じさせつつも、このお仕事って、やっぱりShhhさんらしいな、と感じてしまった私でした。
Client:株式会社ユーザベース様
Direction:重松 佑(Shhh Inc.)
Design:宇都宮 勝晃(Shhh Inc.)
Develop:宮前恵太, 吉田麻里子(Tempest Inc.)
5. YUW LOOK BOOK for 24AW

yuwというファッションブランドのルックブックサイト。何が面白いって、横書きテキストが縦に配置されているんですよ…!ナビゲーションまで縦配置。そしてルックブック用の写真も、縦写真が横配置になっていて、その横配置の写真の上をコンテンツがスライドしていく(何を言っているのか自分でも分からなくなってきました!)。
テキストは極めて小さく、でもBUYなどのリンクはモーションさせる。自動スクロールのスピード感、フッターのSee Moreの見せ方も絶妙。これらの「一見使いにくい」ようなギミックがブランドの先鋭的なニュアンスを体現していて、これだからファッション系のサイトは面白い。これってモバイルファーストで制作されていると思うのですが(違いますか?)…こんな使い方見たことなかったです。
6. CATCH THAT SANTA

大人だってみんな、クリスマスが楽しみですよね!という気持ちを思い起こさせてくれる、クリスマスサイト。その名も「CATCH THAT SANTA」。絵本のような雰囲気のあるイラストレーション全開の世界観。その中にあるいくつかのモチーフは音が鳴るようになっており、流れるクリスマスBGMにあわせて音を鳴らすことができます(おなじみのサイとロバも出てきますよ)。
みんなを楽しませたいという気持ちが入っているところが、やっぱりtoteさんですよね。サイトのクオリティはもちろん、みなさんとXのTLを楽しませるという姿勢も含め、独自の存在感を放っています。
ちなみにこのサイト、右下にクリスマスにかけてのカウントダウンがあるんですが…当日何かが起こるのではないでしょうか…?本記事ではそこまで紹介できないのがもどかしい…。期待して待ちたいと思います!
制作:tote inc.
7. URBAN RESEARCH KYOTO

メインビジュアルの絵の強さが目を引きますが、モーションとして航空掲示板の「パタパタ感」がを導入していて、これがパタパタするたびになんだか気持ちいいんです。フィジカルなパタパタ感の「心地よさ」を体験させながら、ブランドを印象付けていくという様相で、独特な体験性をもたらせてくれます。また、各フロア紹介の際に画面上に現れる「フロアマップナビゲーション」も、おそらく実際のフロアの図面だと思われるのですが、これをそのままナビゲーションとして起用していて、これもまた尖っていますね。既存のフィジカル性をモチーフとして使う強さを感じさせられました。
制作:STAND FOUNDATION co.,ltd.
8. TORiX株式会社

このサイト、すごくないですか?FVを見ているだけでも情報量がすごい。営業に関する圧倒的情報量も圧巻なのですが、この情報量が、デザインや情報設計によってものの見事にコントロールされているんですね。TORiXは営業のスキルアップやチーム戦略などを強化するサービスが主な事業なのですが、営業におけるノウハウをおしみなく展開する「ナレッジコンテンツ」の充実度に驚かされます。ターゲットは営業を強化したい会社ということもあり、デザインのかっこよさよりもコンテンツ、情報設計に重きをおいたのだろうと推測します。それにしても、目に止まったら気にせざるを得ない、印象的なサイトでした。
制作:株式会社アイタイス
9. aim 新卒採用

「たくさんつくろう。おいしいエール。」ということで、画面下部に「エールを送っている人たち」のイラストが。しかもこの人たち、追従するんです。こんな見せ方、他で見たことありません。他にも「MEMBERS(調理師紹介)」トップの回転する調理師たちの見せ方だったり、調理師のON/OFFモードを同じ一枚の写真に入れていたり(しかもたまに瞬きしてます)、座談会コンテンツの見せ方だったりと、コンテンツやデザインに「ちょっとしたアイディア」がある。しかもこのアイディア、AIでなく人間だからこそ考えられるアイディアではないか。そこが魅力ですね。
トマトの神経衰弱ゲームも、なかなかいい塩梅に難しくて面白いですね。最後には「そろそろエームサービスのロゴがトマトに見えてきましたか?(見えない)」。うーん。確信犯!Re:designさんの社内で、このサイトについて盛り上がったそうなのですが、この「盛り上がるサイト」ってところもひとつのポイントかもしれませんね。
制作:株式会社RED
おわりです
まとめサイト、11月号、いかがでしたでしょうか。クラフトワークで愛を感じた『spicato』さんのコーポレートサイト、ラーメンの意匠を借りてラーメン的シズル感を出した『RAMEN CLUB』、「不鮮明さ」がコンセプトを露わにした『kyu』、「コンテンツの見にくさ=先鋭性」を表現した『yuw LOOKBOOK』、圧倒的情報量の『TORiX』、「人だからこそ」のアイディアが光る『aim 新卒採用』。今月も面白くて新しい予感を感じさせるサイトを色々拝見できてうれしかったです。
おっと、これでまとめサイト、年内最後の更新でしたね!!iDID Magazineの更新自体はあと1本残っていますので、年内もう少しだけお付き合い頂けますと幸いです。
ではまた。来月お目にかかりましょう。
iDID Magazine編集部でした!