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高知の山奥にあるバンガローがオフィス
ユニオンネットさんが、高知の馬路村にサテライトオフィスを立ち上げるところから、ミトネデザインがはじまるんですよね。
丸山:元々ユニオンネットに馬路村出身のスタッフがいて、そのスタッフがユニオンネットに入社したときから「地元に帰りたい」とずっと言っていて(笑)。そんなに言うほどいい土地なんだ、と。しかもそのスタッフの友達のお父さんが、馬路村の村長さんだったんです。
地域の観光センターのウェブサイトをリニューアルしたいという話をきっかけに交流が生まれて、それから何度か現地にも足を運んでいたんですが、あるとき役場から「サテライトオフィスに興味はないですか」と聞かれて。村長も「近くに二階建てのバンガローがあるから使ってみたら」と言ってくれて。私自身、地域創生に興味があったこともあり、やってみようと思ったのがはじまりです。

ミトネデザインは基本3名体制でやられてるんですよね。丸山さんと、サテライトオフィスに常勤しているのが、デザイナーの安岡さんと、フォトグラファーの濵﨑さん。
丸山:そうです。安岡さんは、大阪の制作会社にて、大手企業をはじめ幅広い分野のクリエイティブに携わってきたグラフィックデザイナー。濵﨑くんは、人や風景の空気感を自然に切り取ることに長けたフォトグラファー。私は経営や広報、実務も手がける立場として関わっています。
安岡:私は高知出身で、大阪で10年ほどデザインの仕事をしていたんですが、その頃から「地方のデザイン」がしたかったんです。その後フリーランスとして高知に戻るんですが、「一緒の目線でものづくりできる仲間が欲しい」とも思うようになって。そのタイミングでミトネデザインの募集を見かけ、お話を伺ってみようと。
濵﨑:僕は熊本出身なんですが、前職は福岡のインテリア販売会社で、商品ページのデザインや商品写真の撮影ディレクションを担当していました。僕自身田舎育ちなこともあり、都会に住むことにあまり興味が持てなくて。もっと自分にあった自然な場所で働きたいなと思っていたんです。そこで安岡さんと同じくミトネデザインのオフィス立ち上げの話を聞いて「これだ!」と思いました。
意思決定が速い”800人の村”馬路村
馬路村はどんな村ですか。
丸山:高知県東部の山あいにある、800人ほど(2025年時点)の小さな村で、全国的には「ゆずの村」として有名です。特に「馬路村農協」のブランド力が強く、「ゆずドリンク」「ぽん酢」「ゆず化粧品」などの商品展開で、多くのファンがいます。村のブランド戦略や商品開発を、行政やコンサル任せにせず、馬路村の農協内で企画・実行しているのも特徴ですね。商品パッケージやコピー、カタログもすべて村発信。意外と他の自治体ではできないことだし、「自分たちの言葉で、自分たちの村を語れるところ」が馬路村のいちばん面白いところだと思ってます。

(写真は馬路村HPより引用)
安岡:私はこの1年くらい、同世代の女性たちと「馬路村をもっと良くするには?」をゆるく話し合う、期間限定のコミュニティに参加していたんですが、「馬路村は心身的な幸福度が高い」とみなさん言いますね。川のせせらぎや鳥のさえずりには四季ではない”季節のグラデーション”を感じます。それがクリエイティブに及ぼすものはたくさんあると思います。
ちなみにコミュニティには6人ほどが参加していて、農協の方や建設業の方など、色々なスキルを持っている方で集まって話し合いをしています。
村のブランド戦略や商品開発を行政やコンサル任せにせず、自分たちで企画実行しているのはすごいですね。
丸山:言っても人口800人の村なので、シンプルに意思決定が速いんだと思います。みなさんが村に誇りを持っていて、自分たちの土地を守りたいという気持ちが強いからこそ、主体的でスピードが速いのかなと。たとえば市街地に住むのであれば「暮らす」ことがメインですが、馬路村だとゆずや観光などに「関わる」気持ちが加わるんじゃないかなと思うんです。
安岡:そうですね。村ならではのコンパクトさと距離の近さゆえに、物事が決まっていくスピード感が速い。コミュニティ内で「ワーケーションできる場所があるといいね」って話が出たら、すぐ村長のもとに話が行って3ヶ月後には実現していたり。
馬路村は元々林業が盛んな場所だったんですが、それが衰退してきていた時期に柚子の生産に舵を切ってみたりと、村に思い切りの良さがあるんです。コミュニティでも、ゆずがなくなったら、人が少なくなったらどうする、といった話をしながらも「これまでも状況に合わせてうまく切り替えてきた村だから、今後もみんなでアイディアを出し合えば切り替えていける」と言っているんです。
「数字」ではなく「関係性」を丁寧に育てたい
ここからは、ミトネデザインさんのお仕事のことをお聞きします。まずは、インスタマガジン「UMAJI journal」。
濵﨑:「UMAJI journal」は馬路村からのお仕事です。それまで馬路村には発信用のSNSはあっても「村外の新しいファン」を獲得する動きをあまりしておらず、加えて若い世代からの認知が少しずつ落ちているという課題を持っていました。そういった背景もあり、馬路村役場の方から「若い人向けに情報発信をするメディアを一緒に作って欲しい」とご依頼いただいて、村外のどちらかというと女性にターゲットを絞って情報発信する、インスタグラム主軸のメディアを立ち上げました。

コンセプトは「馬路村を通して、ちょっとだけ休日が楽しみになる」。更新は月に1回で、毎月行っている打ち合わせに役場と僕たちで互いのアイディアを持ち寄って企画をつくります。
例えば最近の特集である「自転車で巡る、ゆずの村」。馬路村はアップダウンがある山村で、観光者の移動が徒歩だけだと大変なので、村で電動自転車の貸し出しが始まったんです。そういった会話から自ずと企画は固まっていきますね。企画立案から撮影・デザイン制作、更新まですべてを安岡さんと僕の二人でやっています。


(ミトネデザインHP「馬路村インスタマガジン UMAJI journal 誕生の裏側」より)
安岡:とても小さな村なのでコンテンツはかなり限定されます。でも、馬路村に暮らす私たちだからこそ”馬路村”というテーマを掘り下げることができる。すべてを2人で作るので、川遊びや山登りがテーマのときも私たち自身が目いっぱい遊び、登ります。見た人に「行ってみたい」と思ってほしいので、取材や撮影も全力で楽しみます(笑)。最近は「インスタを見て来ました」とか、全国各地の若い方からの反響が増えてきていますね。


(ミトネデザインHP「馬路村インスタマガジン UMAJI journal 誕生の裏側」より)
次は月海製塩さん。
安岡:月海製塩さんは、自然の力だけで塩を育てる「完全天日塩」の製塩所です。3〜4ヶ月かけてつくられる塩は、ミネラルが豊富で旨みもしっかり。とても人気があるのですが、生産量に限りがあり、これまではほとんどが業務用として流通していました。そのため、一般の方が気軽に楽しめる機会はあまり多くなかったんです。

そんな中で代表の方から、「もっとたくさんの方に、この塩を味わってもらいたい」「贈り物にも選んでもらえるようなパッケージにしたい」とご相談があり、ブランディングをお手伝いさせていただくことになりました。お話を重ね、海のそばにある製塩所の風景に触れる中で、月海製塩さんのお塩は海そのもののように、やさしくてクリアな味わいだと感じました。その印象をデザインでも素直に伝えたいと思い、日々表情を変える海の風景をそっと切り取ったようなパッケージをご提案しました。そこからロゴや名刺、リーフレットまで展開し、トータルでブランディングをお手伝いさせていただきました。



次が、モネの庭25周年プロジェクトです。
安岡:高知にある北川村「モネの庭」マルモッタンは、フランス・ジヴェルニーにあるモネの庭を再現した本家公認の庭園施設で、昨年開園25周年を迎えたんです。その周年記念ということで、ミトネデザインで動画撮影、オリジナルグッズ制作、電車広告を担当させていただきました。
まず、最初に「一年を通してモネの庭を映像で残したい」というご相談をいただき、動画撮影を行いました。濵﨑くんが丁寧に季節を追いながら、一年かけてたくさんの写真を撮りためてくれました。

同時に「周年記念のグッズも作ってほしい」ということで、イラストレーションをイラストレーターのyamyamさんにお願いし、Tシャツ、エコバッグ、クロッキー帳などバラエティに富んだグッズを制作しました。このときは庭園の美しい風景を活かしたポスターも制作して、北川村「モネの庭」マルモッタンならではの光と季節の魅力を、周年を記念するビジュアルとして表現しました。



その後、電車内の広告ジャックのご依頼もいただいたんです。このときはすでに濵﨑くんが撮りためてくれた写真素材があったので、その素材を活かして、電車内全体を“庭をめぐる空間”のように演出できないかとご提案させていただきました。
丸山:濵﨑くんが春夏秋冬で現地に通って撮り溜めた写真を、車両内全体に散りばめる贅沢な広告です。ひとつの季節に限らず、1年を通してモネの庭を感じられるのが、とてもいいんですよね。普通の電車広告だと、なかなかここまでの時間を費やすことはできないと思うんです。


「UMAJI journal」にしても、25周年プロジェクトにしても、ひとつひとつのお仕事に、ミトネデザインさん特有の時間感覚があるように感じます。
安岡:そうですね。もちろん、必要に応じてスピード感を持って対応するのですが、その中でも焦らず、本質を見極めながら進めていく姿勢を大切にしています。
丸山:マガジンに関しては、行政のプロジェクトということもありフォロワー数がKPIなので、その達成を考えると投稿数も増やした方がいいですよね。ただ、ミトネデザインが運用を担う意味を考えたときに「数字」だけが目的になってしまうと、わざわざ私たちのような小さなチームに依頼する意味が薄れるとも思っていて。「数字」を最優先にするのではなく「この場所や人に惹かれてつい見てしまう」「また来たくなる」と思ってもらえる「関係性」を丁寧に育てていくこと。それこそがミトネデザインの担うべき役割ではないかと考えているんです。
ミトネデザインのテーマは「地域に根付く」
さて、さきほどから気になっていたのが、安岡さんと濵﨑さんがいらっしゃるバンガローです(※当日はオンラインでの取材で、お二人はサテライトオフィスからのご参加でした)。このミトネデザインのサテライトオフィスについても教えてください。
丸山:そうですね。やっぱり、二階建てのバンガローが特徴です。目の前には川が流れていて、デスクから30秒ぐらいの距離に川があります。足を浸せますよ(笑)。自然との境界が曖昧な、ちょっと不思議な制作環境ですね。

安岡:タヌキがオフィスの前を通ったりします(笑)。一日の流れとしては、大体9時ぐらいに出社し、濵﨑くんと私で案件進捗確認のミーティングをします。なお、週に一度は丸山さんも含めた全体ミーティングも行っています。
12時頃にお昼休憩をするんですが、周りにコンビニはないので、街で食材を買ってきてキッチンで料理します。ミトネデザインでは毎日自分たちで昼ごはんを作っているんです。周りの人たちがおすそわけでくださる野菜や、お客さんの農園さんからいただいた食材などを使って作ったりしてます。忙しいときは残業もありますが、大体定時頃終われています。この地域は温泉が豊富なので、仕事の後に温泉へ行くのも楽しみのひとつです。
丸山:山奥なので、日が暮れると本当に真っ暗になるんですよ。もうリッチブラックより暗い漆黒というか…(笑)。

(写真は「自家製ローズマリーのパリパリチキン」)
「クリエイティブな制作環境」を目指してサテライトオフィスを立ち上げたということですが、オフィスをどのように活用されていますか。
丸山:バンガローが元々宿泊施設だったのもあるんですが、いわゆる“オフィス”というよりも、仕事とワーケーションの中間のような使い方をしています。都市部のようなスピード感や情報密度から少し距離を置いて、川のせせらぎと鳥のさえずりを聴きながら、静かに思考したり、ものづくりに没頭したりできる環境になっているかな、と。休憩中に川に足をつけに行けるなんて、普通は考えられないですから。
また、安岡さんも言っていたように、村の人が採れた野菜を持ってきてくれたときなどは、そのまま長い時間お話していることもあります。ミトネデザインのテーマは「地域に根付く」なので、村のひとたちと交流するのも大切なこと。工数や生産性を考えたらよくないことなのかもしれませんが、そういうことも含めてのサテライトオフィスなんです。

安岡:村の人と話すこともオフィス開設当初はよくあったんですが、みなさん私たちの習性を段々とわかってきてくれていて(笑)。私たちが内に籠るタイプだと分かったら、意外とそっとしておいてくれる。「このイベント、ミトネデザインさん参加したがるだろうな」と思うことがあれば誘ってくれるし、村の飲み会とかなら誘ってくれつつも「気が乗らなかったら参加しなくても大丈夫だからね!」と言ってくださったり。馬路村の人たちは外の人との触れ合い方がうまいんですよね。

高知のクリエイティブについて
高知ならではのプロジェクトがあれば教えてください。
丸山:プロジェクトではなくて、どちらも書籍なのですが『d design travel KOCHI』と神木隆之介さんの本『かみきこうち』が面白いです。地元の魅力や作り手の温度感が丁寧に詰まっていて、高知では「手に取れる・触れる広告物」がまだ強く息づいているのを実感しましたね。

「ロングライフデザイン」の視点で紹介。
右:神木隆之介『かみきこうち』。神木さんが高知で出会った魅力の数々を紹介する
ビジュアル紀行ガイドブック。
クリエイターで気になっている方はいますか。
丸山:あまり意識してチェックはしていないのが実情ですが、クリエイターさん以前に丁寧に仕事をされている方々はたくさんいらっしゃいます。 また、元々都心で事業をされていた方が移住して起業するケースも多く、そんな方のクリエイティブ感度は非常に高いです。あえて人をあげるなら、タケムラデザインアンドプランニングさんと、四国の方ではないのですが、モノやコトにデザインの息を吹き込む点では、木住野彰悟さんの作っているものはよく拝見しています。


安岡:尊敬するクリエイターの方はたくさんいるんですが、高知県内で活動されている方だと、梅原真さんと、私も丸山さんと同じでタケムラナオヤさん(タケムラデザインアンドプランニング)、このお二人ですね。学生時代に存在を知って、大阪へ行ってからもお二人の書籍を読んだりしながら「やっぱり地域でデザインの仕事がしたい」という想いが強くなっていったんです。
決裁権のある方と深く関わりながら、その人の想いや土地の魅力を丁寧に伝えていく。そんな仕事を通して、自分の好きな風景や、誰かの大切な気持ちを広めたり、残していけたら。そういう想いを強くするきっかけをくださったのが、このお二人でした。

高知におけるクリエイティブは今後どうなっていくと思われますか。
丸山:高知は一次産業が盛んな地域ですが、その担い手不足は深刻な課題です。だからこそ、クリエイティブができることはまだまだあると思います。単なる見た目の装飾にとどまらず、事業や地域の課題に寄り添い、仕組みから考えるデザインや広報が求められているのではないかと思うんです。
産業が持続しなければ、雇用も地域の活力も維持できません。そういった課題に対し、私たちなりのやり方で貢献できればと思っています。四国の中でも“陸の孤島”と揶揄されることの多い高知ですが、過度な期待ではなく、少しずつでも人口が増えていくと嬉しいです。人が暮らし、仕事をし、誰かとつながることで、地域も文化も続いていくと思うので。
あと、やっぱり情報発信は大事ですね。いろんな切り口で発信していくことが絶対的に必要だと思います。地方はどこもそうなんですが人口減少や雇用が生まれないことに嘆くばかりになっていて、もう少しデザインや広報的にコミットしていかないと厳しいのではないかなと。

「地方拠点でも自由で強い働き方」を実現したい
ミトネデザインを立ち上げた経緯のひとつに「自由で強い働き方を実現したい」という想いがあったそうですね。
丸山:そうですね。「山奥のサテライトオフィス」と言っても、私は「地方でのんびりできること」を目的にするのではなく「地方発でも”クリエイティブなもの”を作りたい」と思っていたんです。
「自由で強い働き方を実現させたい」という言葉の裏には、世の中の「地方へのまなざし」への違和感もありました。ミトネデザインを立ち上げた2020年頃は、コロナ禍が落ち着き、デザインの現場でもリモートワークが広がりはじめた時期。ギルド的な働き方に可能性を感じつつも、リモートワークの普及に伴って「楽して稼げる」といった、一種の”軽さ”も見えるようになってきていて。
でも、デザインの仕事って決して“楽な仕事”ではないですよね。むしろ、自分の頭で考え抜き、何度も壁にぶつかりながら形にしていく。自分自身との対話が欠かせない仕事です。

丸山:私が特に課題を感じていたのは「営業力」と「集客力」。都心の企業がリモートワークや地方拠点をつくる流れも、結局のところ「都心の仕事を地方がする」という実態になっていて。スキルが高い仕事を都心がやって、それ以外のパートを地方ですることになると、結局地方のクリエイターは全国レベルでは通用しない人になってしまいます。
だからこそ、地方であっても、全国と対等に戦える拠点である必要がある。ミトネデザインでは“個の力”が最大限に活きる環境を整えること、そして「営業力」と「集客力」を強化して、地方拠点であっても外に向かってしっかり発信できる「強い現場」をつくりたいと思っているんです。
なるほど、地方で全国的に戦える拠点になることが、ミトネデザインさんの根本にあるんですね。
丸山:地方にも魅力的な人や企業がたくさんあるのに、その価値がうまく届いていないもどかしさもずっと感じていました。採用担当として多くの人と話していると、「地元に帰りたいけど、いいデザイン会社がない」「クリエイティブな仕事は都会にしかない」と悩む地方出身者が多く、そういった「地方のクリエイティブのあり方」にも疑問が強くなってきていて。
地方ではIT人材の育成という名目で多くの税金が投じられていますが、いざスキルを身につけても、働く場所がなければ意味がない。結果的に優秀な人が流出してしまう。そんな状況だからこそ、地方でも“いきいきと働ける場所”をつくりたいと思っているんです。

愛着が実るものを、社会に根付くかたちでつくっていきたい
みなさんがミトネデザイン、個人として今後やっていきたいことを教えてください。
安岡:私はミトネデザインで、これまでずっとやりたかったことができている実感があって、今はすごく満足してるんです(笑)。ただ最近、「地域におけるデザイン」はまだ少しハードルが高く感じられているのでは、と思うこともあって。たとえば、事業者さんと直接お話をしてみると、みなさんそれぞれにやりたいことや課題を持っていらっしゃるんですね。でも、いざ“相談”となると「ハードルが高く感じる」という声もよく聞きます。
なので今後は、たとえばオープンオフィスのような、もっと気軽に声をかけてもらえる場をつくっていけたらと思っています。

あと、個人としてやっていきたいことは、自分で「ものを作って、売ること」にも挑戦してみたいんです。地域の方と話していると、「削った木の皮が余って捨ててしまう」とか、「イノシシの皮の油が余っている」など、アイデアの種のようなお話がたくさん出てくるんです。
これまでは企画やデザインまでを担当することが多かったのですが、販売や流通まで自分でやってみることで、また違った視点が得られる気がしていて。それはクライアントワークにもきっと還元できるし、地域のためにもなるんじゃないかと感じています。まずは、自然素材を活かしたアップサイクル的な取り組みを何かできたら、と考えています。
なるほど、都会のインプットとは違う、自然からのインプットですね。濵﨑さんはどうですか。
濵﨑:ミトネデザインはこれまで企業や学校のお仕事も多かったんですが、最近は月海製塩さんや野菜を作る農家さんなど、規模は小さいけど自身でもの作りをしている方のお問い合わせが少しずつ増えてきているので、そういった方々のお手伝いを増やしていきたいです。そういうケースだとロゴもまだない立ち上げの段階からのご相談が多いので、初期段階から一緒に伴走しながら、一緒に考えながら前に進むような仕事をもっと増やしていけたら嬉しいですね。
個人的には、フォトグラファーとしていろいろなことに挑戦してみたいです。まずは、自分の暮らす高知という土地に、もっと根を張っていきたい。まだ手の届いていない分野や関係性も多く、この地域ならではの営みや仕事にじっくりと関わっていきたいです。その一方で、高知に限らず四国や全国のさまざまな地域の方とご一緒することで、自分の視野や表現の幅も広げていきたいですね。

では最後に、丸山さん。
丸山:シンプルですが「地域の魅力をデザインの力でもっと広げていくこと」がひとつ。そのためには、地元の方々とより多く関わること。同時に、県外の仕事にも積極的に関わっていきたいと思っています。自然環境を活かしながら、もっと広い視野でクリエイティブを発信していけるように、伝え方も引き続き工夫していきたいです。愛着が実るものを、社会に根付くかたちでつくっていきたいという思いは、これからも変わらないので。
そしてやっぱり、ただの拠点ではなく「クリエイティブな仕事ができる場」を「地方につくる」こと。そうすれば、クリエイターの選択肢も増えていくはずだし、ミトネデザインの原点はそこにあるんです。「山奥にあるデザイン事務所でも、都会に匹敵するようなクリエイティブが生まれる」ということを、実例として伝えられたら嬉しいですね。

おわりです!
ミトネデザインさんのインタビュー、これにて終了です。いかがでしたでしょうか。
今回印象に残ったのは、まず「地元でデザインがしたい」というニーズは、私たちが思っているよりも多いのではないか、ということ。それはリモートワークを導入する企業が増え、ハードルが低くなったこともひとつの理由になっていると思います。しかし、ミトネデザインさんいわく、それだけではクリエイティブな仕事まではなかなかできない、ということなんですね。
だからこそ、ミトネデザインさんはその「地域のデザイン」を変えていこうとしている。その最初の一歩になったのが安岡さんと濵﨑さんで、特に「地元でデザインがしたい」と言っていた安岡さんが「今は(ミトネデザインで)すごく満足している」と言っていることがその裏付けになっていると思いました。これからはもっとミトネデザインさんのような「地域に根付く会社」が増えていくのかもしれませんね。
※ ※ ※
よかったらみなさまの感想を、SNSなどで伝えていただけるとうれしいです。
『GOTO-CHI CREATIVE!』、ここまで札幌、長崎、新潟、京都、四国とまわってきました。次はどこがいいでしょうか。まだまだ回っていないところは多いです。よかったらみなさまも各地域で活躍している「ご当地クリエイター」を教えてくださいね。私たちが取材にいきます。
さて、今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。
本日もすこやかな一日をお過ごしください。
iDID Magazine編集部でした!
※今回のインタビューは8月18日発売の『Web Designing 10月号』との連動企画です。Web Designingではサマリー版、本noteでは完全版をお読みいただけます。