目次
1. NewJeans(뉴진스)

これまでリリースされてきた作品のビジュアルを統括してきたのは、グラフィックデザイナー出身のクリエイティブディレクター・ミン・ヒジンさん。Y2Kとニュートロを独自に解釈したビジュアルシステムは、ロゴからパッケージ、フォトカード、グッズまで一本の世界観でつながっていました。どれを見ても聞いてもNewJeansらしさがわかるのは、ミン・ヒジンさんだからこそだったのかなとも思うので、今後このグループがどうなるのかはみなさん同様気になるところではあります。
事例1:Bernice
NewJeansのトレードマークであるうさぎのキャラクター。クリエイティブディレクションをNayeon Kimさんが、キャラクターデザインとアニメーションをAshmuteというバンドのRangさん(デザイナー名・Yeongさん)が担当しました。ペンライトやグッズ、アルバムパッケージまで一貫して使われていて、グループとファンをつなぐアイコンになっています。
事例2:村上隆とのコラボレーション
日本デビューシングル「Supernatural」の収録曲「Right Now」のMVで、現代美術家・村上隆さんとコラボ。村上さん自身がもともとNewJeansのファンで、ミン・ヒジンさんとの交流から実現したそうです。村上さんのトレードマーク「お花」とバニーを掛け合わせたキャラクターが登場しています。
2. f(x)(에프엑스)
すでに活動を終えたグループですが、f(x)のクリエイティブはK-POPを語るうえで外せない存在です。先ほど紹介したミン・ヒジンさん、実はSM Entertainment(以下、SM)時代にf(x)を手がけていた方でもあります。当時SMのビジュアル&アートディレクターとして、アルバムカバーにとどまらず、制作からプロモーションまでをひとつのビジュアルストーリーとして作り上げていたその姿勢が、後のNewJeansにもつながっているように思います。活動が止まって年月が経った今もクリエイティブが語り継がれているのは、それだけ時代を超えた作品だったということかもしれません。
事例1:Pink Tape(2013年)

VHSテープを模した特殊なパッケージで話題を呼んだ2ndアルバム。ミン・ヒジンさん自身が「初めてのことだったので大きな予算はかけられなかった。予算は結果に比例しない。静かに楽しみながらやろうと思った」と語っています。いくら費用を投資するかよりも、何を面白がれるかの方が大事だということを、このアルバムが示している気がします。
事例2:4 Walls(2015年)

アルバムのリリースに合わせ、ソウルのイテウォンにあるギャラリーでアート展示を開催。各メンバーの映像と画像を壁や天井、アクリル板に投影するインスタレーションを制作しました。音楽アルバムのプロモーションとしてギャラリー展示を企画するという発想は、10年経った今見ても新鮮です。
3. BTS

世界的に活動するK-POPボーイグループ、BTS。『花様年華』、『LOVE YOURSELF』、『MAP OF THE SOUL』といった作品には、1枚で完結しないシリーズとしての設計がありました。アルバムをまたいでストーリーが続いていて、パッケージやフォトブックもその世界観の一部として作られています。そのようなストーリーを設計するというのは、音楽よりむしろ映画や小説に近い発想な気がします。シリーズとして追いかけたくなる設計が、BTSを世界規模で語られる存在にした要因のひとつだったのかもしれません。
事例1:LOVE YOUSELFシリーズ(2017〜2018年)

全4作からなるシリーズのブランディングを手がけたのは、ソウルのブランドデザインスタジオHuskyFox。「自己愛の段階」をカラーシステムで表現した設計で、韓国のアーティストとして初めてグラミー賞のBest Recording Package部門にノミネートされた作品でもあります。
事例2:MAP OF THE SOUL: 7(2020年)

ソウルのデザインスタジオSparks Editionが担当したMAP OF THE SOULシリーズ完結作のカバーは、7種類の「7」の文字を重ねた構造になっています。各メンバーが自分の「7」のフォントを自ら選び、重ねると7年間のグループの物語になるという設計です。メンバー自身がデザインに参加するという発想は、K-POPのアルバム制作として当時珍しいアプローチでした。
4. LE SSERAFIM(르세라핌)

グループ名は「IM FEARLESS」のアナグラム。名前自体がビジュアルの哲学になっているグループです。アンチや批判に真正面から向き合うという姿勢は歌詞にも一貫していて、そのブランドとしての強さがビジュアルにも反映されています。デビュー時のビジュアルシステムはさきほども登場したHuskyFoxが担当。黒と白のみのカラーパレット、10本の斜めのラインで構成されたブランドマークと、グループ名の意味をそのままデザインの軸にやりきっている点が面白いです。
事例1:ANTIFRAGILE(2022年)

アルバムのビジュアルは金継ぎをモチーフにしたデザインで、黒い背景に金のひび割れが走るアートワークは、傷ついた陶器を金で繕う金継ぎの美学から着想を得ています。傷ついても、それごと強くなるというアルバムのテーマをそのままビジュアルに落とし込んでいます。担当したのはさきほどBTSのところでも紹介したSparks Editionです。
事例2:SPAGHETTI(2025年)
ストリーミングサービス上の既存アルバムカバーが突然スパゲッティソースまみれに差し替えられるという、前代未聞のティザーからはじまったプロモーション。アルバム自体もスパゲッティの箱を模したパッケージで、平均視聴時間が麺の茹で時間のように記載されていたり、歌詞が栄養成分表示風にデザインされていたりと、細部まで世界観が作り込まれています。さらに一部バージョンにはスパゲッティでできた犬のストレスボールが同梱されていて、CDという概念をここまで自由に扱えるのかと思わされます。また、「HOT」のリリースに合わせて開催されたポップアップストア「THE HOT HOUSE」は、iF Design Award 2026のBranding and Communication Design部門を受賞。K-POP企業からの唯一の受賞となりました。
5. KATSEYE(캣츠아이)

HYBEとGeffen Records(Universal Music Group)が共同で立ち上げたKATSEYEは、K-POPの制作システムと欧米メジャーレーベルのマーケティングを融合させたグループです。フィリピン、韓国、スイス、アメリカ出身のメンバーで構成されていて、ビジュアルシステムはHYBEではお馴染みのHuskyFoxが担当。グループ名の由来であるキャッツアイストーン(猫目石)をメタファーにしたカスタム書体と、硬さと柔らかさを両立したシンボルマークは、ブランドデザインの専門メディアBrand Newでも取り上げられました。その後KATSEYEの成功を受け、同じ体制で2組目のグループSAINT SATINEも始動。K-POPの制作システムと欧米レーベルを掛け合わせるモデルが定着しつつあります。
事例1:Gnarly(2025年)
K-POPらしい洗練された映像をあえて崩した、混沌とした映像が話題になった本作品のMusic Video。監督はアメリカのビジュアルアーティスト・Cody Critcheloe。賛否両論の滑り出しながらその後グローバルでバイラルヒットとなり、Billboard Hot 100に初登場しました。K-POPらしさを強化するのではなく、あえてK-POPの「お約束」を崩すことで、KATSEYEが「ただのK-POPグループ」ではないことを示そうとした試みだったと思っています。
事例2:BEAUTIFUL CHAOS(2025年)

「Beautiful ver.」と「Chaotic ver.」の2バージョンで展開されたアルバムパッケージ。グラフィックデザイナーのKim Bohuyさんが手がけたビジュアルは整然とした美しさと、生々しいエネルギーという真逆のビジュアルトーンをそれぞれ1つのアルバムとして成立させているのが面白くて、どちらを選ぶかがそのままファン体験の一部になっています。
6. NCT(엔씨티)
当初NCTは「無限拡張」というコンセプトを掲げていました。固定メンバーを持たず、サブユニットが増え続けるという、K-POPでは前例のない試みです。NCT 127、NCT Dream、NCT U、WayV、NCT Wish……と実際にユニットは増え続け、現在は24人が在籍するグループになっています。メンバーもユニットも組み換えられ続けたなかで、「NCTとして成立するビジュアルシステム」を作るというのは、なかなか特殊な設計課題だったと思います。
事例1:NCT 2018 Empathy(2018年)

ソウルとニューヨークを拠点とするデザインスタジオOrdinary Peopleが担当したNCT初のフルアルバムのパッケージは、ハングルとアルファベットを組み合わせた太くキネティックなタイポグラフィが特徴。日本のグラフィックデザイン誌IDEA Magazineとの協働実績も持ち、韓国グラフィックデザインシーンのなかでも国際的な視野を持つスタジオとして知られています。
事例2:NCT 127 カスタム書体

ロンドンを拠点とするクリエイティブスタジオMMBP & Associatesはアルバム『Regular-Irregular』と『Regulate』のクリエイティブディレクションを担当し、タイポグラファーのCarles Rodrigoとともにカスタム書体『NCT 127 Regular』を設計しました。ロゴだけでなくアルファベット全体のグリフを設計したこの書体は、アルバムのためだけに作られたもので、当時でも珍しい取り組みだったといえるのではないでしょうか。
7. aespa(에스파)

同じSM所属のNCTが実験的なグループ設計を試みていたように、aespaもまたSMらしい独自の世界観を掲げてデビューしました。メンバーそれぞれにバーチャルな分身「æ(アイ)」が存在し、現実と仮想世界「FLAT」が交差するという設定は、当時のK-POPとしてかなり攻めた発想だったと思います。今はその設定が前面に出ることは少なくなりましたが、ハイファッションやアートに近い感覚のビジュアルへと進化していて、K-POPの中でも独自の立ち位置を保っているグループだと思います。
事例1:Spicy(2023年)

3rdミニアルバム『MY WORLD』の収録曲『Spicy』は、「現実の中で起きる異常現象」というコンセプトのもと、3Dアートワークをオー・スファンさんが担当。クリエイティブコンセプトはソン・セロムさん、イ・スジンさんが手がけました。3Dロゴ、アルバムジャケット、MVまで一貫したビジュアルで制作されています。
事例2:Whiplash(2024年)

これまでの鮮やかで情報量の多いビジュアルから一転、白を基調としたハイファッション路線に大きくシフトした作品です。チーフディレクターのJo Woocheolさんのもと、フォトグラファーにChoi Naranさん、セットスタイリングにNomess、DJブースのデザインにPark Ki-Pyeongさんと、各分野の専門家を個別に起用しています。またこのアルバムのコンセプトフォトで、バーチャルな分身「æ」が久しぶりにビジュアルとして登場。3DアートワークはPark JinbeomさんとJon Sánchezさんが担当し、全身メタリックシルバーの衣装をまとった姿は、デビュー当初のアニメ・ゲームキャラ的な表現から、よりファッション・アート寄りの表現へと大きく変化しています。
8. ATEEZ(에이티즈)

KQ Entertainmentという中堅レーベルのグループながら、グローバル規模のビジュアル展開をしているATEEZ。アルバムのパッケージデザインをNCTと同じOrdinary Peopleが担当していたり、2024年のCoachellaではK-POPボーイグループとして初めてステージに立ったりと、クリエイティブへの投資の本気度が伝わってきます。大手が有利な業界で、クリエイティブへの投資がアーティストの強さを底上げしているのは、ひとつの面白いケースだと思います。
事例1:GOLDEN HOUR : Part.2(2024年)

NCTのEmpathyでも紹介したOrdinary Peopleが担当。「Every Loving Hour」というビジュアルコンセプトのもと、時計のモチーフを中心に設計しました。12本の放射線で構成されたATEEZのロゴは時間の流れを、8本の延長線は各メンバーの存在を象徴しています。Metallic Red、Platinum Gold、Holographic Silverという3バージョンのカラーシステムも含め、パッケージ全体が光と時間というコンセプトの「触れる体験」として設計されています。
事例2:Coachella 2024

K-POPボーイグループとして初めてCoachellaのステージに立ったATEEZ。四神(青龍・白虎・朱雀・玄武)をあしらった巨大なフラッグ、三国時代から続く螺鈿(ナジョン)細工をモチーフにしたバックグラウンドグラフィック、鳳山仮面舞踏のパフォーマーとの共演と、韓国の伝統的なビジュアル要素をグローバルステージでそのまま使うという選択が印象的でした。アメリカの大観衆を前にして、K-POPらしさを薄めるのではなく、むしろ韓国らしさを前面に出すという判断は、なかなか強いビジュアルへの自信だと思います。
9. i-dle(아이들)

K-POPで「アーティスト自身がクリエイティブを握る」という実践を最も体現しているグループのひとつです。リーダーのソヨンさんは楽曲制作だけでなく、グループ名の発案、ロゴ設計、MVのコンセプトまで自ら主導しています。楽曲だけでなく、グループの見せ方そのものをアーティスト自身がデザインしているという点が、i-dleの面白いところです。
事例:ロゴ設計からリブランディング、そして楽曲ごとのビジュアルまで

i-dleの場合、特定の作品を事例として切り出すのが難しいくらい、ソヨンさんの関与はグループ全体に及んでいます。デビュー前、ソヨンさんはグループ名の変更案をパワーポイントにまとめてCube Entertainmentにプレゼンし承認させたという逸話を持ちます。そして2025年、デビュー7周年を機に「girl」を意味する「G」を外し「i-dle」へリブランディング。ジェンダーによる定義を超えたアイデンティティへ移行するという判断もソヨンさんが主導しました。グループの名前をデビュー時に自ら決め、7年後に自ら変える、そこまで一貫してクリエイティブを握っているアーティストは、なかなかいないと思います。『TOMBOY』『NXDE』『Queencard』『Super Lady』……リリースのたびにビジュアルのトーンが大胆に変わって、同じグループとは思えないほど振り幅が広いのも、ソヨンさんだからこそかもしれません。
10. ZICO(지코)
同じくクリエイティブを自ら動かし続けているのが、ZICOです。ラッパー、プロデューサー、KOZ Entertainmentの創業者のZICOはK-POPのなかで最も「クリエイティブの自己決定権」を持つアーティストのひとりです。7人組ボーイグループBlock Bのリーダーとしてデビューし、ソロミニアルバム『Gallery』(2015年)や『Television』(2017年)の頃から、楽曲制作だけでなくMVとパッケージデザインまで自ら関与していました。自らレーベルを立ち上げ、制作からプロモーションの設計まで一貫して自分の手で動かし続けています。こうした動き方をするアーティストは今後さらに増えていく気がしています。
事例1:Thinking(2019年)

KOZ Entertainmentを立ち上げた翌年にリリースした初のソロフルアルバム。アルバムのパッケージデザインにZICO自身が積極的に関わり、「ファンへのプレゼントのようなアルバムにしたかった」と語っています。レーベルの創業者として制作の全体像を握るからこそできる、アーティスト主導のパッケージ設計です。
事例2:Any Song(2020年)

これはビジュアルデザインの話ではないのですが、プロモーション自体をクリエイティブとして設計するという意味で紹介したい事例です。楽曲に合わせた振り付けを動画で投稿し、TikTokで拡散していくダンスチャレンジ。今ではK-POPのプロモーションとして定番になっていますが、その型を作ったのがZICOだと言われています。『Any Song』のチャレンジは10日間で累計1億回以上の再生を記録。誰でも真似しやすい振り付けと、気軽に参加できる雰囲気がSNSでの拡散につながりました。
番外編① G-Dragon(지드래곤)

i-dleのソヨンさん、ZICOと、アーティスト自身が表現の方向性を決めるという話をしてきましたが、その先駆けとして忘れてはいけない存在がG-Dragonです。BIGBANGのリーダーとして2006年にデビューし、楽曲の制作・プロデュースはもちろん、アルバムのビジュアル、ステージ演出、ファッションまで一貫して自分の表現として扱ってきたアーティストです。2012年、K-POPアイドルとして初めてパリ・ファッションウィークに招待され、音楽の外側でも独自の存在感を確立してきました。K-POPというジャンルだけでは語りきれないからこそ、本編ではなく番外編として取り上げることにしました。
事例:PEACEMINUSONE(2016年〜)

『Coup d’Etat』(2013年)のアルバムで初めて登場したロゴが起点となり、2016年にスタイリストのGee Eunとともに立ち上げたファッションブランドPEACEMINUSONE。平和のシンボルから一本のラインを消したロゴには「GD」の頭文字が隠されていて、ブランドの設計思想自体がアート的です。Nikeとのコラボレーションでは、K-POPアーティストとして初めてNikeとのシューズコラボを実現。今も続くこのブランドは、音楽アーティストが自分のビジュアルアイデンティティをブランドとして育て上げた早い例として、K-POPの中でも特別な存在だと思います。
番外編② K-POPとキャラクターIP

記事を書きながら気になったのが、K-POPのキャラクター文化です。アーティストがキャラクター化されて、グッズやアニメーション、ブランドコラボに展開されていく。今では当たり前になっていますが、調べていくとその大きなきっかけのひとつがBT21だった気がします。
2017年、BTSとLINE Friendsのコラボレーションで生まれたBT21は、各メンバーが自らラフスケッチを描き、LINE Friendsのデザインチームがそれを具体化するというプロセスで作られました。アーティスト自身がキャラクターのデザインに参加するというのは、当時としてはかなり珍しい取り組みで、ファンにとって「メンバーの内面が宿ったキャラクター」という新しい体験になりました。
その後、Stray KidsのSKZOO、TWICEのLOVELYS(サンリオとのコラボも話題になりました)など、グループごとに独自のキャラクターを持つのが当たり前になっています。TREASURE、IVEなど多くのグループが展開していて、日本の推しぬい文化と通じるものがある気がしていて、「推しへの愛着を物に宿らせる」という感覚は、国やカルチャーをまたいで共通しているのかもしれません。
おわりに
10組+α紹介してきましたが、K-POPのクリエイティブを掘り下げていくと、関わっているスタジオやデザイナーがどんどん出てきて、正直まだまだ紹介しきれていません!ということでVol.2もやります!お楽しみに。
あ、そうそう、冒頭で紹介したK-POPグループのIDID(アイディッド)も同じ名前を持つ縁として、これからの活躍を応援していきたいとおもいます。





